2016年からの「新5カ年計画」でGDP(経済成長率)6.5%以上の成長目標を掲げた中国。11月末には、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)に中国人民元が採用され、SDRの構成比上、人民元は英・ポンドや円を上回って、ドルとユーロに次ぐ世界第3位の「主要通貨」となりました。ただ、その人民元を巡っては、8月11日から3日間に渡って実施された中国人民銀行(中央銀行)による通貨の切り下げが、中国経済の景気後退懸念を拡大させ、「チャイナ・ショック」と呼ばれる世界的な株安を呼び起こしたのも事実です。果たして、中国経済の現状はどのような状態にあるのでしょうか?
新一線都市・大連、「経済技術開発区」の地位に陰り
中国内部の経済に触れるため、一線都市である北京や上海ではなく、その次のランクにある新一線都市(※)・大連の現状を取材してきました。
※一線都市・新一線都市・二線都市・三線都市、四線都市、五線都市という区分けは、中国ビジネス上で用いられる都市のランクであり、中国の経済誌「第一財経周刊」が中国400の都市を対象として主要な10項目に関する調査を集計したランキングによる分類
大連市の住民の多くが嘆いていたのは「日本からの観光客がこの3年間でだいぶ減っている。その要因は、一つは円安、次いで日本企業・工場の撤退、最後に日中の政治問題の3つ」ということでした。
中国で最初の「経済技術開発区」に定められた大連市は、中国経済が急速に発展した2000年代になると製造業を中心とした日本企業の進出も著しく、人口も350万人程度から今では約700万人と2倍になりました。写真にある通り、大連市では2000年まで8階建て以下のマンションにおいては、エレベーターを設置する必要がなかったため、低層マンションが数多く建設されていたようです。ただ、その後、経済の発展や人口の増加に順じて、エレベーターの設置が義務付けられ、高層ビルや高層マンションの建設が一気に増加しました。
しかし、その勢いが現在も続いているかと言うと、必ずしもそうとは言い切れず、「世界の工場」と呼ばれてきた中国の拠点のひとつである「経済技術開発区」の地位に陰りが見え始めています。
人件費が上昇、自動車通勤の増加で大気汚染も悪化
その背景には人件費の上昇があります。中国における人件費は年1割程度上昇しており、これまで中国の工場で生産してきた日本企業の多くが、中国での生産比率を引き下げ、東南アジアの工場や日本国内での生産に切り替え始めました。中国全体で見ると、昨年まで市場が拡大していたスマートフォン部品関連ではツガミなどが中国での生産を2分の1から3分の1まで落とし、家庭用エアコンのダイキン工業は生産比率を約2割減らし、ファーストリテイリング(ユニクロ)も9割以上の生産比率を6割から7割まで縮小させています。同時に、安倍政権が発足した2012年末以降の3年間で、人民元に対して約4割ほど円安が進んだことも、中国での生産縮小に影響しました。
このように各地の工場が縮小するなか、相対的に北京や上海などの一線都市の平均月給は地方と比べて高くなり、そのため、地方から毎日、二時間から三時間かけて自動車で大都市に通勤する人々も増えています。北京での大気汚染(PM2.5)の悪化の背景には、長時間かけて自動車通勤する人数の増加にもあるようです。
消費意欲は旺盛、「中国の消費関連分野には期待できる」
一方、消費意欲は旺盛な印象を受けました。大連市内にはスウェーデンの「IKEA」の看板が目立っていましたし、他にも欧米の高級ブランドが揃う商業施設や、ウォルマートやカルフールなどの大規模なスーパーマーケット、日本のマイカルも複数の店舗を構えています。
海外の機関投資家からは「在庫調整が進まず供給過剰状態にある製造業、重厚長大産業は厳しいが、中国の消費関連分野には期待できる」との分析も出ています。
実際、中所得層の台頭により、中国経済における消費関連分野はまだ健在である様子を垣間見ることができました。
アジア最大の110万平方メートルの総面積を持つ「星海広場」は、海鮮レストランや水族館、博物館、動物園などの娯楽施設が集まる一大レジャーエリアとなっており、家族連れやカップルなど、多くの人達で賑わっていました。
また、この「星海広場」には9月に開催された「世界経済フォーラム(2015年大連夏季ダボス会議・90カ国以上、1700人超が参加)」の会場となった世界博覧広場があり、その周辺には高級ホテルや高級マンションが建ち並んでいます。
現地の住民によれば、この地域は今後も開発が進んでいくとのことでした。
個人消費は中国のGDPの5割を占めるまでに上昇してきましたが、今後も堅調に推移していくのかどうかがカギとなってきます。
来年から始まる「新5カ年計画」のもと、在庫調整を進め、生産と賃金をバランスよく上昇させる好循環経済を生む体制が整うかどうか、中国政府の手腕にかかっていると言えそうです。
執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)
経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。