米国製造業の低迷が深刻だ。11月のISM製造業景況指数は48.6で、4年ぶりに50を割り込んだ。同指数は0~100の値をとり、50が製造業活動の拡大と縮小の境界とされる。つまり、4年ぶりに製造業活動が前の月に比べて縮小したということだ。4年前の50割れはたったひと月のことだった。また、11月の48.6という水準はリーマンショック後の2009年6月の45.8以来の低さである。
米国製造業は、中国をはじめとする世界経済の減速によって打撃
米国製造業は、中国をはじめとする世界経済の減速によって打撃を受けている。加えて、実効レートでみて10数年ぶりとなるドル高や、シェールなど国内エネルギー産業での設備投資の減少も強い向かい風となっている。自動車業界では、11月の新車販売台数が2か月連続での年率1,800万台超となって約30年ぶりの好調さをみせているが、これなどは例外なのだろう。
対照的にサービス業は好調だ。10月のISM非製造業景況指数は55.9と前月から大きく低下したものの、それでも悪くない水準だった。果たして、低迷する製造業を尻目に、サービス業は米国景気をけん引し続けることができるのだろうか。
他の先進国同様に、米国では製造業の存在感がすう勢的に低下している。今年10月時点で、農業を除いた雇用者は1億4,000万人いたが、そのうち製造業に従事しているのは9%に満たない。民間サービス業が70%強、政府部門が15%強、残り5%が鉱業や建設業だ。50年前は製造業従事者が全体の27%だったから、この間にいかに経済のサービス化が進行したかがうかがえる。
サービス業が製造業に寄せる形で景気が減速に向かうのか、それとも…
その意味では、サービス業で雇用が増えて所得が増え、それが消費に回るならば、製造業が低迷していても、景気拡大は続けられるかもしれない。ただ、過去の経験はそうした見方に疑問を投げかける。近年まで短期の景気循環は、主に製造業の在庫投資によって左右されてきた。また、上述のISM製造業景況指数と同非製造業景況指数をみても、概ねパラレルに動いてきた。両者が大きくかい離し始めたのは今年に入ってからだ。
今後、サービス業が製造業に寄せる形で、景気が減速に向かうのか。それとも、サービス業の好調が製造業を引っ張り上げるのか。はたまた、両者のかい離が続くという新しい景気の形態がみられるのか。大いに注目される。
ちょっと話は変わるが、中国の7-9月期の実質GDPは前年比+6.9%だった。前期の同+7.0%から小幅減速したが、市場関係者が懸念した急速な鈍化はみられなかった。ただ、業種別の内訳をみると、鉱工業や建設といった第2次産業が一段と減速する一方で、第3次産業(サービス)は加速した。当局は、経済のサービス化が景気を支えていると評価しているようだ。もっとも、サービス部門で一番伸びたのは株取引が中心とみられる金融仲介だった。また、GDPに占めるサービスの割合は45%程度に過ぎない。中国のサービス業が景気をけん引し続けるのは、米国以上に「しんどい」のではないか。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。