一口に「引っ越し」と言っても、転勤などの仕事の事情や結婚、進学といった生活環境の変化、単身者の引っ越し、家族での引っ越しなど、その理由はさまざまです。ここでは、意外と知らない引っ越し祝いのマナーを詳~しく解説します!
引っ越しの理由はさまざま
人は、さまざまな理由で引っ越しをします。引っ越しが多くなる時期は年に何度かありますが、特に毎年3月は "民族大移動" の季節です。誰それがどこに行くなどという話もたくさん飛び込んできます。
しかし、その一つ一つに「御祝」を贈る必要はありません。逆に、「こんなことしなくても……」と相手に余計な気を使わせてしまうことにもなりかねませんので、「贈ればいい」というものではないことを知っておきましょう。
「引っ越し祝い」を贈るのは、親しい間柄や新居を購入したなどというときだけです。つまり、新しくめでたい門出の際に行われる「引っ越し」を寿 (ことほ) ぐものが、「引っ越し祝い」なのです。
そもそも「引っ越し祝い」って何ですか?
ところで、「そもそも、引っ越し祝い」って何?
……と思ったあなた。
正しい「引っ越し祝い」とは、次のA~Eのうちどれでしょうか。一つ選んでください。
【A】引っ越しした人が、親しい人などを招待してパーティーを開く。
【B】引っ越しする人を、招いてパーティーを開く。
【C】引っ越しする人に、金銭などを贈る。
【D】引っ越しする人が、お世話になった人に金銭などを贈る。
【E】引っ越しした人が、新居先のご近所に金銭などを贈る。
「引っ越し祝い」って誰が誰に贈るのですか?
「お祝いするんだから、パーッとどんちゃん騒ぎをするんじゃない?」と考えて、A・Bを選んだあなた。
大きな勘違いです。恥をかく前に、ここで覚えておきましょう。
「引っ越しするときって、周りへの配慮が大切よね。トラブルになりたくないし。」ということで、D・Eを選んだあなた。
大変良い心がけです。ぜひ、ご自身のお引っ越しの時には実践してください。
ただし、これは「引っ越しの "挨拶"」です。引っ越しの挨拶にご近所におソバを配るという「引っ越しそば」の習慣は、よく知られていますね。
ということで、Cの「引っ越しする人に、金銭などを贈ること」、これが「引っ越し祝い」です。
ですから、どんな理由でどんな物件へ引っ越しするのかによって、呼び方や贈り物のマナーも変わりますので注意が必要となります。
「引っ越し祝い」を送る時期は?
まず、「自分が引っ越しをする当事者だったら」ということを考えてみましょう。
引っ越しの直前や直後に、金銭や贈り物をいただいたらどうでしょう?
正直、「いま、それどころじゃないんだけど……」と思うのが普通ですね。第一、そんな慌ただしいときに受け取ったら、紛失や破損の可能性もあります。
ですから、よほどの事情がない限り、引っ越しの最中や、直前直後は控えるようにしましょう。
基本的には、引っ越し前に余裕をもって渡すのがマナーです。どうしても都合がつかないとか、急に引っ越しを知ったという場合は、引っ越し後1カ月ぐらいの間に渡すようにしましょう。
あるいは、「引っ越ししました」という転居の案内が来てから、1カ月以内に贈るのが一般的とされています。
「引っ越し祝い」の相場はどのくらい?
誰にどのような「お祝い」を送るのかによって、金額も変わりますので注意しましょう。
・友人などの親しい間柄や職場の同僚へなら、\5,000~\10,000
・兄弟や親戚の場合は、\30,000~\50,000
・両親には\50,000~\100,000
以上がおおよその目安と考えておけばいいでしょう。
ただし、こうしたものは地域によって、感覚や価値観が異なるものなので、その地域の風習をよく考えて、それに合わせるようにすることが大切です。特に兄弟や親戚に送る場合は、親ともよく相談するようにしましょう。
「引っ越し祝い」にマナーはあるの?
「引っ越し祝い」が難しいのは、相手がどのような理由で引っ越しするのかによって、贈り物のマナーや上書きが変わるところです。また、住居を新築して引っ越しする場合と、中古や賃貸の物件に引っ越しする場合も異なりますので、同様に気を配る必要があります。
「引っ越し祝い」の熨斗 (のし) はどうするの?
熨斗の表書きは、引っ越しの「理由」により異なります。
まず、職場の人たちが引っ越しするのは、人事異動のときというのが一般的ですね。人事異動の理由に「昇進」が伴う場合は、「祝御栄転」「御栄転御祝」などのように上書きします。単なる転勤の場合は「御餞別」です。
次に、住居を新築したので引っ越しをするというときは、「祝御新築」「御祝」、中古物件を購入したり、別の物件へ転居したりする場合は、「御祝」「御餞別」「御引越御祝」「引越御祝」となります。
いずれも、紅白の蝶結びの水引と、熨斗付きのご祝儀袋を用います。
会社関係の場合
職場の人の場合、「おつきあい」や「社内風習」という意味合いが強ければ金銭を包むのが一般的です。
自分だけ突出して多かったり少なかったりすることのないように、あらかじめ職場の人たちと「だいたいどのくらいを包むのか」を相談をしておくといいでしょう。特に、就職したばかりで職場の人間関係がよくわからないときなどは、先輩や世話役の人にアドバイスを受けるようにします。
基本的には、その人との関係がどんなものであったかをよく考えて金額を決めましょう。場合によっては、職場の人たちで少しずつ出し合って金銭を包んだり、贈り物をしたりということもあります。
多く包みたいと思った時は、新居で使っていただけるようなプレゼントを個別に用意してもいいでしょう。
プライベート関係の場合
あまり難しく考えず、「別れが寂しい」「転居先でも元気で」といった、あなたの思いを素直に伝えるようなものを贈りましょう。その人が新しい土地で寂しくないように、落ち込んだ時に元気がでるようなものは何かを考えれば、それほど贈り物選びは難しくないはずです。
また、金品を贈るだけではなく、お別れ会などを開いて楽しい思い出を共有することも立派な贈り物です。これまでに撮りためた写真などをアルバムにしてあげるのもいいでしょう。
「引っ越し祝い」を選びましょう
気持ちが一番大切ですが、やはり喜ばれるものを贈りたいものですよね。相手の好みなども考えて、贈り物を選びましょう。
ただし、「引っ越し祝い」として避けたいものもあります。めでたい気分を損ねかねませんので、マナーには気をつけてください。
「御餞別」
こちらは、基本的には祝儀袋に現金を包めばよいでしょう。最近は、メッセージ付きの封筒など、多様なデザインのものがあります。ちょっとした手紙やメッセージカードなども添えると気持ちが伝わっていいですね。
親しい間柄の場合は、形式的なものだけではなく、そうした心遣いを添えると、今後も良い関係を続けていくことができます。
「新築祝い」
住居を新築した場合は「引っ越し祝い」ではなく「新築祝い」となります。
一般的に「赤」はめでたい色ですが、こと住居の祝い事に関してはご法度です。なぜなら「赤」は、「火」=「火事」を連想させるからです。同様の理由で、「火」を連想させるような品物を贈ることも、マナー違反となります。灰皿やライター、ストーブなどの暖房器具などは素敵なデザインであっても、選ばないようにしましょう。
ですから、お花を贈る場合も深紅のバラなどは控えたほうが無難です。
また、観葉植物の鉢植えなども「新築祝い」の贈り物としては人気がありますが、反面、世話が苦手で好きではないという人もいます。お花や植物を選ぶ場合は、プリザーブドフラワーなどが人気です。いずれにしても、花や植物を贈り物にするときは、お花屋さんに相談してみましょう。手間のかからない観葉植物なども、教えてもらえますよ。
さらに、壁を傷つけざるをえないような絵画や場所をとる置物なども「新築祝い」には不向きとされています。個人の好みもありますので、相手の趣味などを熟知している場合を除けば、やめておいた方が無難です。
「引っ越し祝い」
中古物件を購入したり、賃貸の別の物件に移動したりする場合は、「引っ越し祝い」もしくは「御餞別」を贈ります。基本的には「新築祝い」に準じます。
「引っ越し祝い」で喜ばれそうなものって……?
このように「引っ越し」に関するお祝いの品というものは、意外と何を贈っていいか悩むものです。あれこれ考えても何にすればいいかわからないときは、相場金額程度のカタログギフトがおすすめです。お酒やグルメギフトなどの消耗品も喜ばれます。好みがわかっている場合や親しい間柄なら、思い切って「相手が欲しいもの」を直接聞いてもいいでしょう。
意外と使える消耗品セット
特に単身者の引っ越しなどの場合、洗剤や入浴用品などの消耗品セットは意外に便利なものです。
中途半端な洗剤などは、いちいち荷造りするのも面倒なので引っ越しする際に思い切って捨ててしまうことがよくあります。
ところが……荷造りしている際は「新居でまた買いそろえればいいや」と思っていても、いざ使おうとするときに、捨ててきたことをうっかり忘れているということはよくある話。「アレがない!!」と焦ることになりかねません。
そんなときに、一通りセットになっているものがあれば安心です。さらに、「引っ越し祝い」でもらった消耗品セットを使っている間に、必要なものを補充し、買いそろえることもできます。
台所用と洗濯用の洗剤セットにはスポンジやラップなどが、シャンプーなどのセットには入浴剤などが入っていることもあり、とても充実した内容になっています。贈り物としては十分といえるでしょう。
こうした実用品もオススメです。
お金や労力の提供で応援という方法も
引っ越しは大きな出費となります。現金や金券を包むのは悪いことではありません。「少ないですが、お引っ越し費用の足しにしていただければ幸いです」などといった言葉を添えて贈りましょう。
プライベートでも親しい間柄なのであれば、引っ越しのお手伝いに行くことも喜ばれます。引っ越し業者さんを頼んではいても、大なり小なり想定外の事態が発生するものです。そうしたときに、サッと動くことができる人手は何よりありがたいものです。
特に女性の単身の引っ越しなどは、大きなものを運ぶ際には苦労しますから、男手はとてもありがたいものです。気心知れた間柄であれば、そうした労力の提供をしてあげてもいいでしょう。軽トラックなどの小回りの利く車を、引っ越し祝い代わりにレンタルして運搬を手伝ってあげれば、きっと感謝されますよ。
ただし、お手伝いに行くときは、動きやすい服装で、気持ちよく労力を提供し、ケガやトラブルにならないように注意してください。
まとめ
いかがでしたか?
ちょっぴり面倒なこともありますが、人と人との別れの機会を良好なものにする、あるいは今後も良好な関係を維持していくためには、こうした祝い事は、必要不可欠なお付き合いマナーです。ちょっとしたミスで恥をかくことのないように、しっかりと押さえておきましょう。
マナーもさることながら一番大切なことは、離れていく人へ感謝の気持ちを伝えることです。どのような金品を贈るのかも重要なポイントではありますが、気持ちがこもっていないお祝いほど味気ないものはありません。
あなたなりの気持ちを伝える努力をすることが、何よりも大切ということを忘れないでくださいね。
あなたもやっていませんか? 実はあの字は……「金」じゃありません
ちなみに余談ですが……3月は別れの季節。
「転勤するの、誰!? 今年の御餞別、何人分準備すればいい!?」などと、大慌てで千円札をかき集めることもありました。
量産型 (?) の「熨斗袋」は、「御餞別 氏名」というように自分で書かなければなりません。字が下手なうえに筆ペン嫌いの私には、苦行の季節でした。
そんななか、一度「やってしまった!!」と大恥をかいたことがあります。
思いっきり、「御銭別」と書いてしまったのです。
気が付きましたか? 気が付かなかった人は、同じミスをしている可能性があります。
よーく注意して見てくださいね。
<イラスト:まさき りょう>
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