レノボ・ジャパンが今月17日に発表した「ThinkPad P」シリーズ。史上最強のThinkPadを目指して開発したという同機は、XeonプロセッサやMaxwell GPUをはじめとする強力なコンポーネントを、17型としては薄くモビリティにも配慮した"窮屈"なボディで実現したモバイルワークステーションだ。今回、この特別仕様のThinkPadが、厳密さや過酷さで知られる同社「大和研究所」の開発試験を如何に経てきたのかを見ることができたので、その内容を紹介したい。

横浜みなとみらいの「大和研究所」を見てきた

Yamato Labは変わらぬThinkPadの開発拠点

長くThinkPadを使い続けているユーザーには聞き飽きた話かもしれないが、同社の「大和研究所」は、全てのThinkPadの研究・開発拠点として世界的な知名度を誇る施設だ。IBM時代の神奈川県・大和市に置かれていた頃から、レノボ後の横浜みなとみらいに移転してからの現在に至るまで、開発部隊もIBM時代から殆どそのまま、一貫してThinkPadの拠点として機能し続けている。「つくり方も、考え方もそのまま継承している。ずっと変わらぬThinkPadを開発し続けられる環境にある。これからも日本のサプライヤーとともに、綿密に連携しながら、新しい技術を世界に発信したい」と、同社の取締役副社長 内藤在正氏。

旧大和の機能は、設備の内容も含めほぼ全て継承している。「堅牢性」「耐久性」「信頼性」「性能優位性」の4つの強みも、旧大和からこの新大和に継承している。一方で、開発部門が研究部門と同じ施設内に同居しているため、旧大和以上に効率化しているという特長もある

その大和研究所の役割で特に有名なのが、製品開発の過程で実施する一部"過激"な耐久試験の数々。ThinkPadが壊れにくいと言われるのは、こういった試験を経ている成果なのだが、今回のThinkPad Pシリーズは、性能と安定動作のユーザー要件が高いワークステーション用途を見据えたモデルであるし、さらに熱処理が難しい高性能プロセッサ類を積んでもmm単位で薄型化を詰め、バッテリも妥協しなかった。そもそも物理的に"デカイ"。例えば角落下試験などのクリアが困難であろうことは容易に想像できる。実際、同社内でも、「大きなチャレンジだ。本当に大丈夫なのかという声もあった」という。

主要な開発試験をいくつか見学

さて、では大和研究所でThinkPad Pシリーズがどんな"酷い目"にあっていたのかだが、試験の設備構成は、どの程度の負荷をあたえるかなどの基準は当時から変化したものもあるかもしれないが、2011年のみなとみらい移転時に公開したこちらの記事の時と大きく変わっていない。ちなみに、本稿などで紹介する試験内容は試験全体のほんの一部だそうで、現在の開発過程では細かいものをあわせると200項目ほどの試験が存在するそうだ。なお、ご存知の通り同社のノートパソコンとタブレットは、堅そうな小型モデルだろうが、薄型のXシリーズだろうが、今回の巨大なPシリーズだろうが、製品名が「ThinkPad」であれば全て同一基準で試験を行っているという。

では、今回見ることができた試験の内容を順を追って紹介したい。

携帯電話などが出す電磁波がThinkPadに与える影響を調べる試験。この対策が不十分だと、スピーカーから不意にノイズが出たり、誤動作、酷いとPCがシャットダウンするなどの問題が出るという。エンジニアが手に持った器具から、違法電波級(そのため完全防備のチャンバー内で実施している)の強力な電磁波を照射してテストしている

本体各部、ポート類などへの耐静電気の試験。PC本体が帯電した状態で他の機器を繋いだ場合や、帯電したUSBメモリをポートに繋いだ場合などもテストしている。電圧は8000Vまでに耐えられることが求められるが、テストは1万V以上で実施。なお、一般的に通常環境での静電気は3000V程度とのこと

ヒンジ強度などを確かめる開閉テスト。現実の人間の開閉動作を模して、右利き左利きで天板左右端を基点に力をかける。180度開閉する2in1も同様のテストを行う

点に加重をかけて問題が出ないのかの試験。会議中にPCに肘をついたら壊れたPCがあったのだろう

面で加重をかける試験。PCを旅行トランクに手で押し込んだりするシチュエーションを想定。かけている荷重は社外秘だが、大き目のダンベル1個と重量挙げプレート2枚分くらいの重さであり、人が上に乗っても大丈夫なくらいの耐久性を確保できるようだ

EMC試験。電磁波を遮断する特殊な壁面の室内で、ThinkPadから発生する電磁波のみを測定し、規定値におさめる対策を施す

高温や低温、極端な温度変化の環境を再現する大小いくつかのチャンバーの中で、気温に対する耐性を試験。温度設定は、高度を飛ぶ飛行機の貨物室や、高温多湿な輸送船コンテナの中といった過酷な環境も想定している

動作中の冷却ファンを"揺らし"ている試験。動作中の"揺らし"は、回転中のファンの軸受けにダメージとなる。その耐久性を試しているのだ

こちらは各種バンプ試験の設備

「ThinkPadをリュックにつめて、自転車で通学していたら壊れた」というユーザーの声からうまれた試験。瞬間的に水平方向のGを繰り返し加えている

こちらは、「大学教科書など重く堅いものをThinkPadと一緒にリュックに入れていたら壊れた」ことから実施している試験。ThinkPad上に固定されていない重りを載せた状態で、垂直方向の衝撃を繰り返す

LCD部分の角などを押して、無理やりぐにゃりとゆがませ、それでも壊れないかを試験している。液晶の角をつまんで持ち運んでも大丈夫なのは、こういった試験のおかげだ

これは防塵性能の試験。人口の埃パウダーや、現地から取り寄せた「アリゾナ砂漠の砂」が舞う環境で問題がでないか試験している

落下試験は、面落下と角落下を実施。大型のThinkPad Pシリーズだが、角から落としてもボディが割れたり内部がクラックしたりはせず、先が削れる程度

写真は電波暗室と無響音室。ここで無線と音響の試験を行っている。無響音室では、昔は冷却ファンやHDDのノイズなどを試験していたが、最近はSSD化などで騒音源も減り、コイル鳴きなどといったより細かなノイズ対策が主になってきているそうだ

ところで、現在のレノボ・ジャパンは、NECパーソナルコンピュータと事業を統合している。先日には、NECパーソナルコンピュータの米沢事業所で日本国内向けThinkPadの生産がスタートした。ここ大和研究所でも、NECの「LaVie」シリーズの一部モデルで試験が行われるようになっているという。NEC側のエンジニアで大和に常駐している部隊も存在しているそうで、ThinkPadとLaVieで基準を共通とする部分を試験したり、ThinkPadとLaVieの比較試験をはじめているとのことだ。

常にユーザー見ながら設計しなければならないというThinkPad立ち上げ当初の体験を原点として、今現在でも大和研究所はThinkPadの変わらぬ価値を追求している