民泊問題がクローズアップされている。ホテル業界内では以前から注目されていたが、にわかに沸騰したのは11月5日に違法業者が摘発されたことだ。これは、山形県と東京都の旅行業者が京都市内でマンションを借り上げ、中国人旅行客へ宿泊施設として転貸したことによるものだが、これが"違法"とされる現在の状況と課題について考察してみたい。
使用期間のハードルを上げて違法業者を排除
民泊を語る前に、宿泊施設の定義についてまとめておこう。まず、宿泊料を受領して継続的に宿泊させる営業をする場合、「旅館業法」が適用される。旅館業法では旅館営業のほか、「ホテル営業」「簡易宿所営業(カプセルホテルやホステルなど)」「民宿営業」と区分されており、上記のいずれかで条件を満たした施設でなければならない。
その他、関連法令でも詳細に条件が定められている。民泊はその名の通り、個人住宅が提供されるケースがほとんどで、多くの場合、造作や設備など法令の条件を満たさないことで、旅館業法に違反しているとの指摘がされている。
今や東京都、大阪府、京都府などのホテル稼働率は9割近くに達しておりパンク状態。そのため宿泊費が高騰しており、今後さらにホテル需要は高まると予測される。そんなホテル市場に食い込もうとする民泊が急成長している背景がある。
大阪府議会は全国に先がけて民泊条例を可決、東京都大田区も規制緩和に乗り出したが、もちろんそれぞれ詳細に条件を定めている。特にハードルが高いと言われているのが使用期間だ。実際は1~3日程度が多いとされているが、国家戦略特区の法令では7日~10日以上を条件としている。条件を定めたことにより、規制緩和といいつつ条件にあてはまらない民泊営業の違法性が明確になり、違法業者が実質的に排除されることになると予測されている。
旅館業法自体が時代遅れ
また、「急増する民泊を阻止しよう」というスローガンを掲げるのは、旅館・ホテル組合の全国組織「全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)」だ。利用者の生命財産を守ることを第一に考えて営業しているのがホテルや旅館であるが、営業許可を取らずに、防災・防犯の設備も持っていない民泊業者が事件や事故を起こしてからでは遅いと訴える。
一方、昭和23年(1948)の施行以降その大枠が変わっていない旅館業法自体が時代遅れという声もある。現状の法制において民泊は実質的に不可能である。とはいえ、民泊の法令整備のハードルはかなり高い。一朝一夕の法令整備は難しく、急増する民泊に対応するのは困難だ。
更新制等のガイドラインに保険商品も必要
実状が先行する民泊営業の喫緊課題は、利用者や利害関係に立つ者の生命、財産、生活一般の安全を守ることだ。民泊の存在意義という観点から考えても、旅館業法の枠組みとは異なる民泊営業条件を明確化し、事業者認定を行うことが前提となるだろう。
民泊事業者への行政の立ち入り権限はもちろんであるが、厳格な事業者認定や更新制をとることで、使用期間の条件緩和なども可能なのではと筆者は考えている。宿泊者名簿や廃棄物等をはじめとする行政のガイドラインをクリアした宿泊約款の作成はもちろん、事業の届け出に際しては、物件の不動産登記簿謄本や転貸を可とする不動産賃貸契約書き写しの提出は最低条件だ。
マンションであれば、管理規約や管理組合の承諾書き写しの添付、年度末には営業報告書、更新に際しては民泊を営む者の確定申告書控えの添付など、トラブルになりがちな個人営業の多い民泊ならではの届け出条件を定めることが肝要である。
一方、無届け営業には迅速な行政指導や各種法令の罰則を厳格適用するなど、合法業者と違法業者をはっきり区別し、違法業者が排除されるシステム作りが求められる。その点に関して、民間の保険会社による民泊事業者向け保険商品なども提供されれば、加入事業者はマークが使えるなど利用者が目に見える安心感も必要だろう。また、民泊の仲介業者についても、違法業者の仲介禁止、何らかの損害が発生した一定の責任を担保する枠組み作りも必要だ。
このように、現在動き始めた民泊の規制緩和には違法な民泊事業者を排除する一面があるものの、まだ利用者が安心して宿泊できる環境が整っていないのが実情である。民泊はホテルの予約がとれない"ホテル難民"の救済として、今後、さらなる拡大が期待されている。現状の問題点を洗い出し、早急な"民泊用ガイドライン"が求められる。
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筆者プロフィール: 瀧澤 信秋(たきざわ のぶあき)
ホテル評論家、旅行作家。オールアバウト公式ホテルガイド、ホテル情報専門メディアホテラーズ編集長、日本旅行作家協会正会員。ホテル評論家として宿泊者・利用者の立場から徹底した現場取材によりホテルや旅館を評論し、ホテルや旅に関するエッセイなども多数発表。テレビやラジオへの出演や雑誌などへの寄稿・連載など多数手がけている。2014年は365日365泊、全て異なるホテルを利用するという企画も実践。著書に『365日365ホテル 上』(マガジンハウス)、『ホテルに騙されるな! プロが教える絶対失敗しない選び方』(光文社新書)などがある。
「ホテル評論家 瀧澤信秋 オフィシャルサイト」