様々な職場で話題になる「セクハラ」。今回は、アディーレ法律事務所所属の岩沙好幸弁護士が、セクハラとあだ名の関係について解説する。

そもそも、セクハラとは

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セクハラとは、一般的にはセクシャルハラスメント、すなわち「性的ないやがらせ」を指します。

どういったものがセクハラに当たるかについて、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(雇用機会均等法)は、下記の3点を定めています。

(1)職場で行われること
(2)性的な言動が行われること
(3)性的な言動が行われることに対する労働者の対応によって労働者が労働条件について 不利益を受けること、又は性的な言動が行われることによって労働者の就業環境が害されること

もっとも、セクハラと一口にいっても、それが刑罰を科せられるものなのか、民法上の損害賠償責任を発生させてしまうものなのか、労働法上の問題を発生させてしまうものなのかについてはそれぞれ判断が異なります。そのため、(1)から(3)の要件を満たしたからといっても、必ずしも損害賠償請求ができるとは限りませんし、逆に(1)から(3)の要件を満たさないものでも強制わいせつ罪として刑罰が科せられる可能性があります。

あだ名もセクハラになる

先ほど出てきた雇用機会均等法にある「性的な言動」や「就業環境が害される」は平均的な女性(男性)労働者の感じ方を基準に判断されます。感じ方というものは時代の変化などで変わりうるものですから、一概に「こう呼ぶことはセクハラに当たらない」とは言えません。

呼ばれる側の人間が嫌がっているのにも関わらず、その呼び方を続けるとセクハラに当たる場合があります。「マドンナ」なんて呼び名は男性からすれば女性が呼ばれて喜ぶのではないかと考えがちですが、そう呼ばれた女性が嫌がっているならば「マドンナ」と呼ぶことはセクハラになってしまいます。

呼び方の裁判例には、エンジェルと呼んだことが不法行為となるようなセクハラではないとされたものもあります。この事案は、上司が社員旅行中に女性社員に向けて「うちの課には3人のエンジェルがいる」という発言したものです。裁判所は、エンジェルという言葉は、確かに女性や子供に対する呼びかけの意味で用いられることはあるものの、とりわけて性的意味合いを含む表現ではないこと、また、非常に親切な人、あるいは、必要なときに助力をしてくれる人、頼れる人という意味で用いられる場合も多いのでセクハラにはあたらないと判断しました。

なお、具体的状況によっては、女性社員に対して「エンジェル」と呼ぶことがセクハラになる場合もありますので注意が必要です。

呼び方というものはコミュニケーションを図るうえで重要なツールではありますが、「このくらいなら大丈夫だろう」と勝手に判断し呼んでしまうことはセクハラの危険がありますので避けるのが賢明でしょう。相手が嫌がるようなニックネームや呼び方は避け、セクハラにならないように気をつけましょう。

岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。 パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。 動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。

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