WOWOWのドキュメンタリー・ノンフィクションW『暗黒のアイドル、寺山修司の彼方へ。~「月蝕歌劇団」30年の挑戦~』が、21日(13:00~)に放送される。「月蝕歌劇団」は、旗揚げから30年を迎えた現在も、アングラ演劇にこだわり続ける小劇団。同番組では、劇団を率いる高取英、寺山作品を演じる若い女優を追う。

高橋ひとみ

ナレーションを務めるのは、寺山の"秘蔵っ子"と呼ばれていた女優の高橋ひとみだ。高橋は、17歳の時に受けた寺山の舞台オーディションをきっかけに女優デビュー。1983年に寺山が亡くなるまでの約3年間、寺山や高取と親しかった高橋に、アングラ演劇や当時のエピソードについて話を聞いた。

――オファーを聞いた時の気持ちをお聞かせください。

「『私でいいのかしら?』と思ったけど、話を頂いて光栄です。30年前が蘇ったような懐かしい感じがしました。今はアングラという言葉を聞かなくなったけど、脈々と続いていてうれしい」

――懐かしさはどんなところに感じましたか?

「高取さんが『未完成のものが好きだ』とおっしゃってたけど、よく分かります。未完成さの魅力がすごく伝わってきましたし、自分たちで舞台のすべてを作り上げていくところが懐かしかったです」

――今の若者たちが寺山作品を演じることについて

「私自身『難しい』と思っていたんですが、寺山先生本人に『分かろうと思うから難しいんだ』と言われました。今でも分からないんですけど、感覚で分かれば良いのかな?分からないから演劇なのかな?と捉えています。寺山作品が好きか嫌いかでいいと思います」

――「月蝕歌劇団」の女優たちを見て共感する部分はありましたか?

「アングラが今の若い子たちにどう捉えられているのか不思議ですが、本当の演劇少女だと思いました。もし私が今の高校生だったら、ホリプロスカウトキャラバンとかそういう方向に行くと思います(笑)」

――今年は寺山修司さん生誕80年の年です。寺山作品の魅力とは?

「毎年のように大きな舞台で演じられてるのはすごいなと思います。寺山作品は、異次元の世界に連れていってくる玉手箱。『怖いんだけど見たい!』という印象は、私が高校生の頃から変わってません」

――寺山修司さんとのエピソードを教えてください。

「亡くなる前のたった3年間ですけど、常にそばにいて遊んでいました。寺山さんの価値を分かってない私がそばにいるのが楽しかったんだと思います。東陽一監督の家でコタツに文字を描き始めて、私が『何やってるの!?』って止めようとしたら、東監督が『消すな!すごいことだぞ!』って。今だったらそんなことしないのに(笑)」

――本当に仲が良かったんですね。

「19歳で車の免許を取った時は、初心者マークで運転している私の横で安心感丸出しで寝ていたこともありました。その時、寺山先生に『車旗に詩を書いてあげるよ』って言われたんですけど、『いらない! そんな格好悪いの!』と拒否しちゃって。高取さんに『何てもったいない! 書いてもらえ!』とたしなめられました」

――心に残ってる言葉はありますか?

「『上手くなるな。主役はそこにいるだけで光輝くから何もしなくていい。上手い役者が脇でやってくれる』と言われました。小器用になるなということだと思いますけど、今では上手い方がいいなと思っています(笑)。やっぱり上手い女優さんは、すごく美しく見えるので」

――最後に、高橋さんにとっての寺山修司さんとは?

「親以上ですね。私が21歳の時に亡くなったのですが、その後の30何年間の人生よりも濃い3年間でした。もう年も超えてしまったし、あんな大人にはなれないなと思います。テレビの世界に入って、今があるのも寺山先生のおかげ。見返りを求めない無償の愛、大きな愛をくれた存在です」

高橋ひとみ

1961年8月23日生まれ。東京都出身。17歳の時に寺山修司演出の舞台オーディションで合格し、女優デビュー。寺山の舞台『バルトークの青ひげ公の城』や映画『上海異人娼館 チャイナ・ドール』に出演する。1983年に『ふぞろいの林檎たち』でテレビドラマデビュー。以降、映画やドラマ、バラエティー番組などで精力的に活動する。WOWOWのドラマW『山のトムさん』(12月26日放送)に出演。