11月13日にパリで起きた同時テロは凄惨を極める事件だった。犠牲になられた方々、被害に遭われた方々、ご親族や関係者の方々に心から哀悼の意を表したい。

週明け16日の金融市場の反応は比較的落ち着いたものだった。ユーロは追加緩和期待が高まったこともあって軟調に推移したが、欧州株はほぼ横ばいの展開であった。当事国のフランスの株価も下げて始まったものの、下げをほぼ取り戻してその日を終えた。米国ではエネルギー株に主導されてNYダウが大幅高となった。

同時テロは経済的側面に限れば、その影響は限定的だとの見方が多い。欧州では過去に、2004年マドリッド列車爆破事件、2005年ロンドン地下鉄爆破事件など、類似のテロが起こっている。一国の首都での出来事とはいえ局地的な事件はマクロ経済に大きな影響を与えないという、その時の経験が金融市場を冷静にさせているのだろう。

今回のテロでは、劇場やレストランといった「ソフト・ターゲット」が攻撃された。交通網やパイプライン、金融システムなどの重要なインフラが被害を受けたわけではない。したがって、直接的かつ急速に経済に悪影響が広がるということではないかもしれない。

第2、第3のテロが起これば、マインドの悪化がボディーブローのように効いてくる

ただし、今回のテロを単発での事件と断じるわけにはいかない。そうならないことを祈るばかりだが、第2、第3のテロが起これば、消費者や企業マインドへの悪影響は計り知れない。これからホリデーシーズンが本格化するという時に、レストランやショッピングモールといった人が集まる場所を避けなければならないとすれば…。あるいは列車や航空機などの移動手段が危険視されるとすれば…。マインドの悪化がボディーブローのように効いてくるのではないか。

ただでさえ、欧州は中東からの難民問題に席巻されてきた。今回のように難民の中にテロリストが紛れ込んでおり、行動の機会を待っているのかもしれない。ユーロ圏は、経済通貨同盟(EMU)によって、域内のヒト、モノ、カネの移動が自由化されてきた。それが逆手に取られた格好だ。実際、今回のテロはベルギーで準備され、フランスで実行された。

もちろん、警戒すべきはユーロ圏、欧州大陸にとどまらない。どこででも起こりうるということを肝に銘じておくべきだろう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。