どうせ働くなら被災地のためになる仕事がしたい、真実をこの目で見たいと、福島第一原子力発電所=通称"1F(いちえふ)"で働くことにした竜田一人さん。"1F"で働くということ、漫画『いちえふ』の反応や、原発作業員であり漫画家でもある竜田さんのこれからのことも聞きました。

竜田一人(たつたかずと)
職を転々としたあと、福島第一原発で作業員として働く。福島第一原発で作業員として働いた様子を描いた『いちえふ ~福島第一原子力発電所案内記~』が第34回MANGA OPENの大賞を受賞した。

この目で見たいという好奇心

――働き出すと「なんか普通じゃん」と思うようになり、恐怖や警戒心も薄れていったようですね

慣れちゃうってあまりいいことではないんですけど、そんなに怖いところじゃないんだなって自然と思うようになりました。行く前から、あの程度の放射線量なら心配するほどじゃないというのはわかっていましたけど、周りに心配しすぎる人がいたので、一応は警戒していた。でも行ってみたら地元の人たちが普通に暮らしていて、みんな普通に働いていた。不安はすぐになくなりましたよ。

――現場を知るうちに、放射線量がより高い最前線の現場に行きたいという気持ちが大きくなっていったということですが、希望者はどのぐらいいるんでしょう

さすがに多くはないです(笑)。みんなが希望しない理由は、放射線量が高いとそれだけ"1F"で働ける日数が短くなってしまうというのが一番。あとはやっぱり、ちょっと怖いというのもあるでしょうし。そこそこの線量のところで長く働いたほうが、トータルでは稼げる。僕は半分好奇心で"1F"に行ったものですから、どうせなら最前線を見たいと最初から思っていました。

――深夜に出発して早朝に帰宅する仕事があることも興味深かったです。バラバラの生活リズムに臨機応変に対応できる人のほうがよさそうですね

きっちりした性格の人は向かないかもしれないですね。元自衛官の人は大丈夫そうでしたし、夜勤に慣れている人がいいと思います。たまにいたんですが、あまりに心配性の人も向いていないんじゃないかな。チームワークが重要視されるので、自分勝手にならない、協調性を持っていることも大事。それはどこの職場でも同じですよね。

――仕事以外で辛かったことはありましたか

最初の関連会社で働いた時、寮に人が増えすぎたときはしんどかったですね。でも数人でアパートに越してからは、あまり不愉快なことはなかったです。不便なことというと、携帯の電波! 1Fの中は携帯の電波がそもそも入りにくいんですよ。『いちえふ』にも描きましたが、auの電波が一番入る。それ以外の電波は入りにくいので、改善されたら嬉しいですよね。職場環境が整っていることはこれから来る人にとっても大事ですから。

見たままを描く。見ていないものは描けない

――ここからは漫画『いちえふ』のお話をお聞きします。最初に描いてみた時、これはヒットするだろうという確信はありましたか

いえ、自分ではまったくわからなかったですね。"1F"の中を描いた漫画なんて今までないので、持ち込めばどこか買ってくれるだろう、載ったら話題にはなるだろうなとは思いましたが、面白いかはわからなかった。面白いかって言ったら、むしろつまんないですよねこれ。だってなんのドラマもないから。

――確かに事故などもなく、竜田さんの毎日の仕事の様子や感想が描かれている漫画ですからね

見たことだけを描くように心がけているんです。見ていないことは描かない。誰かの代弁をするようなこともしないようにする。これはあくまで僕の体験記だということです。