マツダが東京モーターショーで世界初公開したスポーツカーのコンセプトモデル「RX-VISION」。そのニュースは世界を駆け巡り、大きな反響を呼んだ。エクステリアデザインの「凄さ」ではなく「美しさ」で、ここまで人々の目を惹きつけたコンセプトカーはなかなかないだろう。しかし、ここではその姿ではなく、心臓について考えたい。

マツダ「RX-VISION」。一般公開でも多くの来場者の注目を集めていた

「RX-VISION」は、「魂動」デザインのめざすべき指標として、デザインのためだけに存在したとしても、十分に意義があったと思う。それほど美しい。その場合、車名は「魂動-VISION」と命名されていただろうか? しかし、実際の名称は「RX-VISION」。ひと目でロータリーエンジン復活を意味するものとわかるが、一方で当面の市販予定はなし。新たなロータリーエンジンの具体像も、「SKYACTIV-R」というネーミング以外、いっさい秘密だった。なんと意地が悪い。マツダの目的はもしかしたら、世界中のロータリーファンをやきもきさせることなのか?

「RX-VISION」はそのデザインと、新世代のロータリーエンジン「SKYACTIV-R」が搭載さることだけが発表された。他に確かなことは、FRであることやボディサイズ、タイヤサイズといった程度だ。しかしそれでも、ここから見えてくることは非常に多い。たとえそれが理論的な推理と呼べるものでなく、幼稚な妄想だとしても、この美しいプロポーションの向こうにロータリーエンジンの未来、ビジョンを思い描かずにはいられない。

ロータリーエンジン復活のカギとなるのは…

数年前、「RX-8」がついに販売中止となったとき、おもな理由は燃費性能が時流に合わないことであったように記憶している。しかし、これからロータリーエンジンを復活させるとなると、問題は燃費ではなく排気ガスだ。ガソリンエンジンの排気ガスには、HC(炭化水素)・CO(一酸化炭素)・NOx(窒素酸化物)といった有害物質が含まれており、ロータリーエンジンはこれらの中でもHCやCOを減らすのが非常に難しい。

これはかなりの難問のようで、ロータリーエンジンがなかなか復活できない最大の要因となっているようだ。しかし、数々のブレークスルーを果たしてきたSKYACTIV技術なら、これを解決することはできるはず。少なくともその見込みがあるからこそ、「RX-VISION」を発表したのだろう。では、その具体的な手法とは? もちろんわかるはずもないし、推測すらできないのだが、妄想程度ならできる。もしかすると、「SKYACTIV-R」とは水素燃料エンジンではないのか?

ガソリンの代わりに水素を燃料とする水素燃料エンジンは、技術的な課題がいくつかあるのだが、ロータリーエンジンはこの水素燃料ときわめて相性が良い。そのため、マツダはかなり以前から熱心に研究開発を進めている。これまでに何台か、水素燃料エンジンの実験車にナンバーを取得して、公道でもテストしているほどだ。

水素燃料エンジンはごくわずかなNOxと水しか排出しない。ロータリーエンジンの弱点であるHCやCOは発生せず、排気ガス問題は根本的に解決する。それどころか、CO2を排出しないため、あらゆるガソリンエンジンよりはるかにクリーンといえるエンジンであり、その環境性能は電気自動車にも匹敵するといえるだろう。では、そんなに優れた水素燃料がなぜいままで日の目を見なかったのか? 筆者の記憶では、たしかロータリーベースの水素燃料エンジンは完成の域に達しているが、水素を安全に積載する方法や水素供給インフラがないことがネックになっていたはずだ。

しかし、この2つの問題は期せずしてトヨタが解決してくれた。秋の夜長にさらなる妄想が許されるならば、水素タンクは新たに開発せずとも、トヨタから供給を受ければいいのではないだろうか? マツダはトヨタからハイブリッドの供給も受けているし、トヨタは燃料電池関連の特許を公開しているくらいだから、技術流出がどうこうとはいわないだろう。水素供給インフラも、燃料電池車用に整備されつつある水素ステーションをそのまま活用すればいい。多額の投資が必要な水素ステーションの経営者は、水素を買ってくれるなら燃料電池でもロータリーでも構わないだろう。

レシプロエンジンと同じ燃料を使っている限り、ロータリーエンジンの弱点である排気ガスや燃費がレシプロエンジンに追いつくことは難しい。仮に追いつけたとしても、追い越すことはありえないだろう。ならば、ロータリーエンジンの未来を切り開くには非常に大胆な策が必要になる。そのために、水素燃料エンジンは決してありえない話ではないと思うが……、どうだろうか?