現在日本のペットの飼育頭数は15歳以下の人口よりも多く、被災時には大きな混乱が予想されます。災害時に猫はどんなところに住むのか? 動物病院で治療は受けられるのか? 様々な不安があると思います。

動物愛護法(動物愛護法及び管理の関する法律)においても2013年に災害時対策が追加されました。実際に被災した場合の対応については各自治体により異なりますが、例を交えて解説していきます。

防災に備えた準備

マイナビニュース内で掲載されている「うちの猫のために、防災グッズを用意してみた」という記事にて、準備に関してはわかりやすく説明してありますので、参考にしてください。こちらの記事に獣医師として2点、補足します。

・感染症予防の徹底

避難所では他の猫と同じ場所で待機することが予想されます。多くの猫が一箇所に集まると問題になるのは感染症です。特に猫カゼと呼ばれるウィルス性鼻気管炎は感染力が高く、ストレス環境下で脅威になります。他の猫からうつされないため、そしてうつさないためにもノミ・ダニ予防も含め、予防接種は必ず行いましょう。

・避難ルートの確認

また、あらかじめ各自治体のホームページ等から避難ルートを把握しておきましょう。ペットとの避難訓練を行っている自治体もあります。例えば渋谷区では、2015年9月に犬を対象に訓練が行われ、来年度には他の動物にもその対象を広げていく予定です。実際に所属する自治体の防災訓練に参加することで、どのような環境でペットが生活することになるのか確認することができます。

災害時の行動

・同行避難

飼い主とペットが一緒に避難することを、同行避難と呼びます。避難時は原則同行避難になります。速やかにリードにつなぎ、キャリーに入ってもらいましょう。猫は一度はぐれると捕獲するのが非常に困難なため、必ずキャリーが必要になります。また道路が壊れている可能性もあるので、車輪付きではない方が望ましいです。キャリーの開閉時や、脱走の二重予防の意味でも、リードがあるとなお安心です。

愛猫とはぐれてしまった場合

外出時に発生した場合は、家に戻れないかもしれません。東日本大震災においては、一旦避難した飼い主がペットを避難させるために自宅に戻り、津波に巻き込まれたケースもあります。必ず行政の指示に従って行動してください。

やむを得ず猫と一緒に避難できなかった場合は、自治体の動物担当部署に相談しましょう。被災地で一時預かりとして保護され、その後飼い主と再会することができた猫もいます。また、マイクロチップ等による所有者明示は再会率を高めます。

避難後の生活

・猫はどんなところで生活するのか

各自治体によって対応が異なりますが、衛生的な問題から多くはペット専用のエリアに入ることになります。例えば新宿区の動物救護マニュアルでは、人間の居住場所と完全に分離し、ペットはケージ内またはつなぎ止めで生活すると記載されています(新宿区学校避難所動物救護マニュアル)。猫の場合は、ケージで暮らすことになるでしょう。

猫の医療は受けられるのか

獣医師会の各支部が協定に基づき動物応急医療活動を開始します。上記の新宿区では、避難所への巡回医療・相談、診療所の設置を、東京都獣医師会新宿支部が行います。しかし現実的に人命第一が原則ですので、正常時の動物病院レベルの設備・対応をそろえることは難しいです。

また、動物救護センターでの医療の目的は救護された動物全体の健康を維持することです。つまりセンター内のストレス軽減、感染症予防に重点が置かれます。これを動物病院での飼い主さんの意向を基にした医療である「個体管理」に対して、「郡管理」または「シェルターメディスン」と呼びます。シェルターメディスンでは、1頭に対してはやむをえない選択をしなくてはらないこともあることを理解しなくてはいけません。

実際に起きた問題点

避難所には当然動物が嫌いな人もいますので、いくら隔離した場所にいても臭いや夜間の鳴き声が大きなストレスになります。基本的には猫の飼育管理は飼い主さんが責任を持って行うことが基本です。避難所のルールに従い、衛生的な管理を行いましょう。また飼い主が高齢、あるいは怪我をした等の理由で、管理を協力して交代で行う可能性もあります。

まとめ

冒頭でも触れたように、災害時対策が動物愛護法に追加されたのが2013年です。まだ各自治体によって対応にもばらつきがあります。必ずご自身の所属する自治体で、「どこの避難所でペットとの同行避難ができるのか」を確認してください。東日本大震災の前後で猫の行動が変化したという声も多くありました。猫が震災で動揺していつも通りに行動ができなくなることも十分予想されます。災害時に冷静に行動できるよう、入念に準備しておきましょう。

(画像と本文は関係ありません)

■著者プロフィール
山本宗伸
獣医師。Syu Syu CAT Clinicで副院長を務め、現在マンハッタン猫専門病院で研修中。2016年春、猫の病院 Tokyo Cat Specialistsを開院予定。猫に関する謎を掘り下げるブログnekopediaも時々更新。