11月1日、トルコの「やり直し」総選挙で与党AKP(公正発展党)が過半数の議席を獲得して単独政権を樹立する運びとなった。今年6月の総選挙でAKPは過半数に届かず、他の政党との連立交渉も不発に終わったことで、8月にエルドアン大統領が総選挙のやり直しを宣言していた。事前の世論調査では各政党の支持率は6月選挙の得票率から大きく変化しておらず、AKPの苦戦が伝えられていたから、AKPの大勝はかなりのサプライズだった。そのため、選挙結果を受けて政局安定への期待からトルコの株価指数が急伸、通貨リラも対ドルで大幅に上昇した。
もっとも、金融市場のユーフォリア(高揚感)は長続きしなかった。選挙結果はすぐに「消化」され、今後どうなるかに焦点が移ったからだろう。
そもそもエルドアン大統領が6月の総選挙に踏み切ったのは、基盤を固めて議会制から大統領制への憲法改正を行い、自身の権限を強化しようとしたからだった。今回の総選挙で、AKPは全550議席のうち317議席を獲得した。しかし、それは、憲法改正に必要な367議席や、憲法改正の国民投票を動議できる330議席に届いていない。エルドアン大統領は野党を切り崩して憲法改正に意欲をみせるかもしれないが、全ての野党が猛烈に反対しているため、おそらく日の目をみないのではないか。
エルドアン大統領に求められるのは、専制的な政治手腕の強化ではなく、むしろ分裂してしまった国をまとめ、野党とも友好な関係を構築して、政治や経済の安定、治安の強化などに尽力することだろう。
金融市場が注目する点とは!?
金融市場が当面注目するのは以下の点だろう。
まず、経済チームに誰が選ばれるか。とりわけ、経済運営に手腕を発揮し、金融市場からの信任も厚かったババジャン元副首相やシムセク財務相が加わるかだろう。ババジャン氏は、AKPの三選禁止のルールによって6月の総選挙には出なかったが、1回飛ばしで今回は出馬できたという経緯があった。
そして、中央銀行の独立性が尊重されるか。TCMB(トルコ中央銀行)が昨年1月にリラ防衛のために大幅な利上げを実施して以降、エルドアン政権から頻繁に利下げ圧力が加わった。選挙前にはTCMBへの圧力がやや控えられた感はあったものの、果たして今後もそれが続くのか。TCMBの目的を物価安定から経済成長へと変更する法改正を行おうとする不穏な動きも一部で報道されており、こちらは要警戒だ。
トルコの消費者物価は9月に前年比8%近い伸びを見せており、TCMBが目標とする5%を大きく上回った推移が続いている。今年に入って進行したリラ安の影響も大きいとみられる。本来であれば、利上げしてもおかしくない状況だが、政権に遠慮してかTCMBに動く気配はない。中央銀行の独立性が脅かされている国の通貨が買われるはずはないのだが。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。