21作品がそろった2015年の秋ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、全作品の初回放送をウォッチ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視!」したガチンコでオススメ作品を探っていきます。

別記事(「2015年秋ドラマ」21作の傾向を徹底分析! 名作ラッシュの予感…TBS3作品は屈指のクオリティ)において、秋ドラマの主な傾向を[1]国民的作品が一挙ラインナップ [2]高視聴率チームがそろい踏み [3]秋らしいハートウォーミング作 [4]濃淡鮮やかなミステリーの秋 [5]進む高齢ターゲット化 の5つと分析。

オススメドラマとして、『おかしの家』(TBS 水曜23時55分)、『下町ロケット』(TBS 日曜21時)、『コウノドリ』(TBS 日曜22時)、『無痛』(フジ 水曜22時)、『偽装の夫婦』(日本テレビ 水曜22時)の5本を選びました。

本記事では、それらの作品を含む、今クール全作品のひと言コメントと採点(3点満点)を紹介していきます。

『5→9~私に恋したお坊さん~』 月曜21時~ フジテレビ系

石原さとみ

出演者:石原さとみ、山下智久ほか
寸評:『恋仲』に続く月9らしいラブストーリーだが、ターゲットは10歳上がったイメージ。主演コンビは華こそあるものの新鮮味はなく、どこかで見たキャラクター設定も気になる。古川雄輝、速水もこみち、田中圭らイケメンを愛でるドラマであることは言うまでもないが、それが「ヒロインの恋に応援や共感したい」気持ちをそいでしまう。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】

『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』 火曜22時~ フジテレビ系

木村文乃

出演者:松坂桃李、木村文乃、菜々緒ほか
寸評:派手なアクション、残虐な殺人事件、サスペンス、恋愛など、注目のポイントが多く、焦点はぼやけ気味。2000年代初期のドラマ迷走期に見られた欲張り型の作品で、結局物語より菜々緒の存在感に終始してしまいそうな気もする。恋人を守るヒーローとしての松坂が輝けば、徐々に視聴率は上がっていくはずだが、序盤は目立たなかった。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『結婚式の前日に』 火曜22時~ TBS系

香里奈

出演者:香里奈、鈴木亮平、遠藤憲一ほか
寸評:難病モノはすっかり減ったが、芸能人の病気が話題になるこの時期にはタイムリー。久々の主演となる香里奈の演技にブランクはなく、脇を原田美枝子、鈴木、遠藤ら演技派がガッチリ固め、人間ドラマとしてのベースはきっちり作られている。ただ、脚本に意外性がなく、母親のトリッキーなキャラに頼り過ぎているのが残念。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『相棒14』 水曜21時~ テレビ朝日系

水谷豊

出演者:水谷豊、反町隆史、石坂浩二ほか
寸評:輝かしいシリーズに汚点を残すようなバッドエンドで批判を集めた前シリーズから一新。佇まいに色気が出た反町と、キャリア官僚という設定で、悪いムードを早くも払拭した。やはり同作はキャラ造形が巧みだが、再婚は事件や解決方法に目を引くものはなかっただけに、2人が本当の意味での“相棒”になれるような大事件が期待される。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】

『偽装の夫婦』 水曜22時~ 日本テレ系

天海祐希

出演者:天海祐希、沢村一樹、内田有紀ほか
寸評:どこをどう切り取っても遊川和彦の脚本。過去にトラウマを抱え、変人になってしまったヒロインの物語だが、今作は強烈なミステリーはなく、痛快なヒーロー要素寄り。ただ、常に視聴者の裏をかこうとする人だけに、今後大きな展開の変化はあるだろう。「ゲイとの夫婦生活を通してパートナーシップを問いかける」野望成就なるか。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『無痛~診える眼~』 水曜22時~ フジテレビ系

西島秀俊

出演者:西島秀俊、伊藤淳史、伊藤英明ほか
寸評:骨太な医療ミステリーと思いきや、リアリティよりもファンタジー要素が強い娯楽作。原作を基にしたオリジナルストーリーは意欲的だし、伊藤に「犯罪者に現れる」犯因症が見られるなど、波乱含みの展開にも引きつけられる。佐藤祐市監督のシリアスな世界観は、昨今のドラマ界では貴重なだけに、明確なテーマ性を見せたいところ。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】

『おかしの家』 水曜23時53分~ TBS系

オダギリジョー

出演者:オダギリジョー、尾野真千子、勝地涼ほか
寸評:ノスタルジーと美しさを共存する計算された映像、キャストのナチュラルな演技、静かなムードの中に潜む社会性の高いテーマ。いずれも深夜枠ではもったいないほど洗練されている。視聴者を引き込み、問いかけるような映像は、石井監督の余韻ある演出によるもの。当作をゴールデンで放送できないところに業界の問題点が潜んでいる。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

『科捜研の女』 木曜20時~ テレビ朝日系

沢口靖子

出演者:沢口靖子、内藤剛志、若村麻由美ほか
寸評:現役日本最多シリーズ作だけあって、キャラクターの魅力は万全。そこに池上季実子演じる新キャストが殴り込みをかけることで、新鮮味をきっちり出したのはさすが。沢口演じるマリコとの情報戦は王道のコントラストを描き、さっそくファンの心をガッチリ。おなじみの脱力シーンも楽しく、何も考えずに楽しめる安定感は貴重だ。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『ぼんくら2』 木曜20時~ NHK

岸谷五朗

出演者:岸谷五朗、風間俊介、松坂慶子ほか
寸評:今や時代劇そのものがレアなのに、活劇要素のない静かな人情劇はさらに極レア。『木曜時代劇』という枠の存在価値をそのまま表現したような作品と言っていい気もする。続編も岸谷らしい気だるそうな演技は変わりなし。キセルを吸う小西真奈美の艶っぽさも新たな魅力として加わり、作り込まれたセットも、寺田農の語りも見事。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『遺産争族』 木曜21時~ テレビ朝日系

向井理

出演者:向井理、榮倉奈々、岸部一徳ほか
寸評:無味無臭でスタイル抜群な主演夫婦が、濃い脇役たちと対峙するだけで独自の世界観が生まれている。ただ、岸部、伊東四朗、室井滋、鈴木浩介らは、同枠の準レギュラーだけに変化や意外性がほしいところ。初回はキャラ紹介に大半を割いて終わったが、今後は「闘わない男」をどう魅力的に見せるか、脚本家・井上由美子の腕がなる。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『オトナ女子』 木曜22時~ フジテレビ系

篠原涼子

出演者:篠原涼子、吉瀬美智子、江口洋介ほか
寸評:タイトルも篠原、吉瀬、鈴木砂羽のトリオも既視感があり、それが視聴者に首をひねらせている。とりわけ篠原と吉瀬は仕事も家庭も充実しているイメージが強いだけに、このキャスティングは疑問。「痛いアラフォー」の心理描写も軽く、出会い方や恋心の抱き方などにリアリティに感じないのは、90年代の恋愛モノと似ているからか。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】

『青春探偵ハルヤ』 木曜23時59分~ 日本テレビ系

新川優愛

出演者:玉森裕太、新川優愛ほか
寸評:極めてシンプルな痛快推理アクション。「今どきの学生が悪い大人を懲らしめる」展開は、深夜枠として良くも悪くも無難。ターゲット層が日ごろ抱いている不満を題材として取り上げ、スカッと解決するシーンを見せられれば支持を得るかもしれない。「貧乏で純粋なヒーロー」と「事件に巻き込まれる美人ヒロイン」の組み合わせも王道。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】

『釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助』 金曜20時~ テレビ東京系

濱田岳

出演者:濱田岳、広瀬アリス、西田敏行ほか
寸評:まさかのリメイクも、浜ちゃんを新入社員にした設定変更は大成功。そのおかげで社長であるスーさんとのギャップが大きくなり、作品のコンセプトが深くなった。スーさんに西田を起用したことに加え、初回に武田鉄矢とバトルさせるなど、ファンサービスの要素も多い。ゆったりしたテンポと大した事件のない筋書きは古き良きドラマ。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】

『コウノドリ』 金曜22時~ TBS系

綾野剛

出演者:綾野剛、松岡茉優、吉田羊ほか
寸評:小さな命をめぐる展開は常にスリリングで波乱含み。ハラハラドキドキ、そして祈るような心境にさせてくれるのは、脚本と演出が高品質である証明か。事前取材と役作りの地道な努力を感じさせるシーンも多く、女性の支持を集めるのは間違いない。綾野、星野源、坂口健太郎とクールな“塩顔”俳優をそろえたのも、見事にハマっている。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

『サムライせんせい』 金曜23時15分~ テレビ朝日系

神木隆之介

出演者:錦戸亮、神木隆之介、比嘉愛未ほか
寸評:入れ替わりモノの前作『民王』の次はタイムスリップと、ファンタジーが続くが、今作もギャップを生かしたバカバカしさは抜群。幕末の志士がブラジャーを手にするシーンなどは、わかっていても笑ってしまった。現代の社会問題にどう向き合い、どう解決していくのか。半平太の活躍が愚直で破天荒なほど、ドラマは成功に近づきそう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『孤独のグルメ season5』 金曜24時12分~ テレビ東京系

松重豊

出演者:松重豊ほか
寸評:シーズン5作目もマイペースに、五郎がただひたすら食べるだけ。その姿と心の声が全てなのだが、裏を返せば「ただそれだけのことがいかに幸せなことか」ということでもある。ただ、野心的な作品やアイドルドラマの多い『ドラマ24』に枠移動したのは疑問。放送時間が短縮され、台湾編を用意されるなど、ペースが乱れてしまった感も。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

『掟上今日子の備忘録』 土曜21時~ 日本テレビ系

新垣結衣

出演者:新垣結衣、岡田将生、及川光博ほか
寸評:突拍子もないように見えて、「1日で忘れる探偵」の設定は理にかなったもの。秘密厳守できる、警察から警戒されない、恋愛が空回り、体へのメモがセクシーなど、ドラマの魅力を高める好影響は多い。ヒロインのメガネ+白髪、切り抜き写真の使用など、ゆるい演出も土曜の夜にピッタリ。新垣の役作りに迷いはなく、シリーズ化への期待も。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】

『破裂』 土曜22時~ NHK

椎名桔平

出演者:椎名桔平、滝藤賢一、仲代達矢ほか
寸評:見どころは、医療ミステリーというよりも、地位と野望をめぐるバトル。野心家で挑戦的な登場人物たちが、真正面からぶつかり合う姿は過剰さと紙一重で、舞台を見ているような熱気を感じる。「医者は3人殺して一人前」「ぴんぴん、ぽっくり」などのフレーズも過激だが、珍しさはない。不安は主人公の魅力がなかなか見えてこないこと。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】

『テディ・ゴー!』 土曜23時40分~ フジテレビ系

森川葵

出演者:森川葵、哀川翔、平岡祐太ほか
寸評:くまの編みぐるみは、映画『テッド』とうまく棲み分けができている。そこに哀川の魂が宿るという設定も、深夜ドラマに合う脱力感。森川はこれまでの経験を生かすような伸び伸びとした演技を見せ、堂々とヒロインを演じている。一方の哀川が「いかにも哀川翔」という演技なのは確信犯か。出オチ感は否めないが、若年層狙いゆえにアリか。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

『下町ロケット』 日曜21時~ TBS系

阿部寛

出演者:阿部寛、土屋太鳳、杉良太郎ほか
寸評:年々、女性対象のドラマが増える中、どこまでも男の世界を追求。暑苦しく、泥臭く、感情むき出しで闘う姿を見せる作品は、それだけで価値がある。福澤克雄監督の演出はますますタイトになり、善悪の色分けも鮮明に。脇役の使い方も相変わらず巧みで、キャスティングにも攻めの姿勢が見える。松平定知のナレーションが重厚感を付与。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

『エンジェル・ハート』 日曜22時30分~ 日本テレビ系

上川隆也

出演者:上川隆也、三吉彩花、相武紗季ほか
寸評:主人公の冴羽りょうを演じる上川の熱意は、1話見ればわかる仕上がり。肉体改造から顔の向き、手の位置まで、細部にわたって計算されている。筋書きがマンガ的だけに感情移入はしにくいものの、人間ドラマできっちり落とし込んでいるのは好印象。アクションの扱いが難しいが、原作を上回ろうと思ったら、やはり外せない要素とも言える。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。