フランス、ブルターニュ地方と言えば、クレープやガレット、バターにキャラメル、りんごのお酒・シードルと、おいしいものが次々と浮かびます。大西洋に突き出た半島を擁するこの地方の街、ブレストから、16年前に日本にやってきたジャン・フィリップ・オードランさん。食品輸入のコンサルタントを営んでいます。仕事をしつつ、アール・ド・ヴィーヴル(暮らしの芸術)を楽しむフランス人らしく、日本に来て新たな楽しみ、夢を見つけたそうです。
■これまでのキャリアの経緯は?
日本に来る前は、ベルギーに近い、フランス第5の都市と言われるリールでジャーナリストをしていました。4~5年過ぎたところで、今までと違うことがしたい、自分で起業してみるのもいいのではないか、という気持ちが湧いてきました。外国での求人を探していると、日本のテレビゲーム会社が英仏の翻訳者を探していたので応募し、日本に来ることができました。
しばらくその会社に勤めましたが、「自分でビジネスをしたい」 という思いが強く、10年前にコンサルタントとして独立しました。フランスの小規模な会社、生産者の"アルティザン(手作り感のある)"な食品、飲料を探し、日本で輸入する会社と結びつけます。今、主に扱っているのはハチミツ、ビールを含む、オーガニック製品です。
■現在のお給料は以前のお給料と比べてどうですか?
会社員のときとは違い、収入は安定しません。年収に換算すると、やや減ったかもしれませんが、好きな仕事をして、自由に時間を使い、フレキシブルに動ける生活はお金では買えません。
■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?
今、オーガニック市場が熱い! フランスでもカルフールやモノプリといった、大手スーパーマーケットにもオーガニックコーナーが設けられるようになりました。フランスの各地方で自分が共感できる哲学をもった生産者を探すのは楽しいですね。今はフランスの商品を日本に紹介していますが、いずれは日本独特の食品、生産者の思いがこめられたアルティザンなものをフランスに紹介したいと思っています。すでに、大好きなハスカップや黒糖を持ち込んでみたのですが、受け入れられるには時間がかかりそうです。私はジャン・コクトー(黒糖)とあだ名がつくくらい黒糖の魅力にはまっていますから、このおいしさをいつかフランスの人たちに伝えたいです。
■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?
グローバライゼーションが進んでいるとはいえ、まだまだフランスの田舎では日本のことをよく知らない人が多いのです。丁寧なもの作りをする生産者たちに、日本への輸入を勧めてみても、「テクノロジーの国で、こんな素朴な食べ物が売れるわけがない」と断られ、それを説得するのがひと仕事です。
■ちなみに、今日のお昼ごはんは?
今日は仕事相手と食事をしたので、日本橋のメゾン・カイザーでステーキを食べました。フランス流に言えば、ステーク・フリット(フライドポテト付きステーキ)。でも、本当は和食が大好きなんです。夏休みにフランスに2週間帰ったのですが、3日目で和食が恋しくなってしまった。「ああ、釜飯が食べたい、茶わん蒸しが食べたい」なんてね。
■日本人のイメージは? あるいは、理解し難いところなどありますか?
日本人の男性が不思議です。今日、ランチを食べたレストランでも、見回すと男性は私ひとり。レストランは女性の行くところと決まっているみたいです。仕事の後に同僚と飲みに行くのも不思議です。もちろん、フランスでも同僚と飲みに行くことはありますが、日本みたいに飲みに行く相手がほとんど同僚や仕事相手というのには驚きます。
■日本で仕事をするうえで、大切なことはなんですか?
まずは、日本に来る前に仕事を見つけたほうがいいですね。外国で働きたい人はすぐに目的地に行ってしまいがちですが、仕事が決まっていないのに、住居費などで無駄にお金を使ってしまいますから。そして、どこの国であろうと、仕事に対する情熱や忍耐力も必要です。ただ、第一にその国の言語を話せなければいけないとは思いません。それより、その国の文化を理解し、共感できる点を見つけることが私にとっては大切だったように思います。
■休日の過ごし方を教えてください
事務所は東京にありますが、仕事で地方に行くこともあります。そうしてはまってしまったのが南の島です。日本はミステリアスな国ですね。人が住んでいない島を含めると、5千以上あるというのですから。私はまだ南を中心に20島くらいしか行っていませんが、そこでカフェや居酒屋を巡り、土地の人たちと話しをして過ごす。とても豊かな時間です。
■将来の仕事や生活の展望は?
仕事では先ほども言いましたが、日本の商品を少しずつフランスに紹介していくこと。そして、プライベートでは日本の島のガイドブックを海外向けに書くことです。