日本私立歯科大学協会はこのほど、「第5回歯科プレスセミナー」を東京都千代田区にて開催。セミナーでは神奈川歯科大学 大学院歯学研究科の山本龍生教授が、「歯の健康とその後の認知症・転倒・要介護の関係-歯科から健康寿命延伸への貢献を目指して-」をテーマに講演した。
歯の健康悪化は「認知症」「転倒・骨折」のリスクになる
WHOの調査(2014年)によれば平均寿命が84歳と世界有数の長寿国を維持し続けている日本。一方で、日常生活に制限がある「要介護」の期間をみると、男性が9.2年、女性が12.8年と海外と比べても長くなっている。
山本教授は「超高齢社会となった日本において、いかに健康寿命を延ばしていくかが重要な課題だ」と指摘。その上で、介護が必要となった主な原因として近年増加傾向にある「認知症」「骨折・転倒」に関して「歯の健康と関わりがある」と説明した。
重要なのは残っている「歯の本数」と「義歯の使用」
歯が19本以下(義歯未使用)だった人は、歯が20本以上ある人と比べ、1.85倍も認知症になりやすいことが明らかになった(Yamamoto et al., Psychosomatic Medicine, 2012) |
このうち「認知症」と「歯の健康」の関連性における根拠となっているのが、山本教授が65歳以上の健康な高齢者4,425名を対象に行った研究だ。研究でははじめに、「きちんと物がかめる」と見なされている歯の本数・20本を基準として、残っている歯の本数と義歯使用の有無を調査。その後、4年間かけて認知症を伴う要介護認定の状況を調べた。すると、歯が19本以下(義歯未使用)だった人は、歯が20本以上ある人と比べ、1.85倍も認知症になりやすいことが明らかになった(Yamamoto et al., Psychosomatic Medicine, 2012)。
このような結果が出た理由について、山本教授は「かみ砕く能力の低下により、脳への刺激が少なくなること」や「かむ必要のある生野菜の摂取を避けてしまい、ビタミン類が欠乏すること」などがあると推測している。
また同様の手法で、過去1年間に転倒した経験のない65歳以上の高齢者1,763名を対象に「転倒」と「歯の健康」についても調査。調査開始から3年後、直近1年間に転倒した経験(2回以上)の有無を聞いたところ、歯が19本以下(義歯未使用)だった人は、歯が20本以上ある人に比べて2.5倍も転倒リスクが高いという結果が出た(Yamamoto et al., BMJ Open,2: e001262, 2012)。
山本教授によれば、歯の本数が少ないと下あごが不安定になり、体のバランス機能が低下することが要因として考えられるという。歯の本数が0~8本の人は19~28本の人に比べて5.2倍骨折のリスクが高くなったという研究結果※も出ていて、「歯の喪失と義歯の未使用が、要介護状態に陥る要因となっている」と述べた。
※「Wakai et al, Community Dent Oral Epidemiol, 2013」による
「むし歯」と「歯周病」の徹底した予防を
厚生労働省の調査によれば、20本以上の歯を有する割合は70~74歳で52.3%(2011年)とすでに半数ほどに落ち込んでいる。山本教授は「現在の日本人高齢者は、要介護リスクを減らすほど十分に歯を保っているとはいえない」と指摘。歯を失う原因となるむし歯と歯周病の予防を訴えた。
歯周病に関しては、炎症部分から細菌の毒素など体によくない物質が放出されることから、脳血管疾患や心疾患、糖尿病の原因にもなるという。むし歯と歯周病の予防法について「フッ素が入った歯磨き剤やうがい薬を使い、歯と歯の間をきちんと磨くこと」と語った山本教授。基本的なデンタルケアを欠かさないことが、歯の健康、ひいては体全体の健康を保つ秘訣(ひけつ)といえるだろう。