「関税撤廃率95%に対する評価は各々の立場で大きく異なる」

甘利明経済財政・再生担当大臣・環太平洋経済連携協定(TPP)担当大臣は20日、日本記者クラブにて、TPPに関する質疑応答を中心とした会見を開きました。

冒頭、甘利大臣は、

「TPPが大筋合意したことで、アジア・太平洋地域に世界のGDPの4割を占める3100兆円という自由貿易協定(FTA)としては最大規模の自由貿易圏が誕生する。

TPPにおいては、日本がこれまで結んだ経済連携協定(EPA)の関税撤廃率を大きく上回り、関税を撤廃する割合は95%と、最も高い水準となる。そのなかで、コメや牛・豚肉、乳製品など農産品の『重要5項目』については厳しい交渉を続けるなかで関税を堅持し、農産物の自由化率は12カ国のなかで一番低い水準となった。

この日本の関税撤廃率95%に対する評価は各々の立場で大きく異なる。牛肉・豚肉など重要5項目も、一部は関税削減に応じるため、聖域を守っていないとの声が上がる一方、日本以外の11カ国の関税撤廃率は99~100%であるため、自由貿易を重視する立場からは、日本は低すぎるとの不満の声が上がっている。

交渉は最後が一番難しいが、関税をできるだけ撤廃する『攻めの野心』と『重要品目を守る』という相反する要求のバランスを取ることが非常に苦しかった」

とTPPの内容について説明しました。

甘利明経済財政・再生担当大臣・環太平洋経済連携協定(TPP)担当大臣

「ベトナムがいきなり関税を100%撤廃する『100%カード』を切ってきた」

TPPの交渉過程について甘利氏は、

「7月のハワイでの閣僚会合で、関税撤廃に消極的であったベトナムがいきなり関税を100%撤廃する『100%カード』を切ってきた時にはかなり驚いた。この瞬間、日本の後ろには振り返っても誰もいない状況になってしまった。

その後、マウイ島で開催された夕食会でベトナムの閣僚から『100%の関税撤廃については国内でも議論はあったが、国運をかける決断をした』と打ち明けられたが、そこからベトナムは一気にTPPのルールメーカーになり、全体をチェックする側に回った」

と舞台裏の内情を明かしました。

「安倍首相も『甘利がNOならば私もNOだ』という姿勢をずっと貫いてくれた」

また、日本国内の省庁との調整について甘利氏は、

「今回の交渉は、私一人に委ねてもらえたことが大きく奏功した。安倍首相も『甘利がNOならば私もNOだ』という姿勢をずっと貫いてくれたことで、私から国内外に強いメッセージを発信することができた。例えば農産物に関しては農林水産省のトップが決定し、工業品に関しては経済産業省のトップが決定するというように司令塔がいくつもあると、日本の意志は伝わりにくい。各々の大臣の本音を探るなかでミスリードの情報にもつながっていく。

私が一人でやる、それ以上でもそれ以下でもないと、各国が理解してくれたことで交渉も進んだ。連携プレーは日本が一番とれていたように思う」

と述べました。

中国の加盟、「ルールの違う国に入ってもらうわけにいかない」

一方、TPPへの中国の加盟について甘利氏は、

「TPPは世界基準となる共通ルールを作ることを目指すものだ。進出企業に対して、投資の段階の要求を後から拡大させ、パフォーマンスに合わせた要求に変えてくるような国には入ってもらうわけにはいかない。TPPではそれは禁止されている。予見可能性の高い透明なルールに合わせてもらう必要がある。フェアなルールが守られれば良いが、ルールの違う国に入ってもらうわけにいかない」

と、加盟するために必要な条件について強調しました。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。