黒田総裁の発言をみる限り、日銀が追加緩和を決定する可能性は相当に低い
10月7日、日銀は金融政策の現状維持を決定した。直後の記者会見で、黒田総裁は「必要なら躊躇せず調節を行う」との原則を改めて表明しつつも、「物価の基調は着実に高まってきている」として、2%の物価目標の達成に自信をみせた。達成時期については、「原油価格次第で多少前後する可能性はあるものの、2016年度前半ころ」と従来の見通しを踏襲した。
10月は、30日に二度目の金融政策決定会合が開催される。そこでは、向こう3年間の経済と物価の見通しを示す「経済・物価情勢の展望」、いわゆる「展望レポート」が公表される。経済と物価の見通しが従来に比べて下方修正されるとの見方が根強いものの、黒田総裁の発言をみる限り、日銀が追加緩和を決定する可能性は相当に低いように思われる。
1年前、「物価目標達成を確かにする」との理由で追加緩和に踏み切る
ここで想起されるのは、ちょうど1年前のエピソードだ。昨年10月31日に日銀は追加緩和を決定した。いわゆる「黒田総裁のバズーカ第2弾」である。ただ、その直前の10月7日の決定会合後の会見で、黒田総裁は追加緩和の素振(そぶ)りを全くみせなかった。総裁は、「(景気の)前向きの循環は維持されている」、「需給ギャップが縮む中で、物価上昇期待が高まっている」と物価目標の達成に自信をみせていた。
しかし、わずか3週間半の間に、「需要面の弱めの動きや原油価格の下落」を根拠として、「デフレマインド転換が遅延するリスクがある」ため、「物価目標達成を確かにする」との理由で追加緩和に踏み切ったのだ。まさしく「君子豹変」したわけだ。
日銀は、生鮮食品だけでなくエネルギーも除いた「コアコア」を重視
その間に、原油価格(WTI先物)は90ドルから80ドル近辺に下落していた。ただ、原油価格がその後も下げ続け、現在でも50ドル前後で推移しているのに、日銀が動かなかったことからすれば、当時の「原油安」は追加緩和の本当の理由ではなかったかもしれない。それどころか、日銀は、消費者物価をみるうえで、生鮮食品だけでなく、エネルギーも除いた、いわゆる「コアコア」を重視し始めている。
昨年10月に日銀が追加緩和に踏み切ったのは、今年4月に予定されていた消費税10%への再増税を後押しすること、あるいは10月に入って5円ほど円高に進んでいた為替レートを反転させることだったかもしれない。いずれも、表立って言えない理由だ。
君子は再び豹変するか?
さて、今月7日の会見では、質疑応答で昨年10月との違いを問われて、「値上げが続いており、企業の価格設定行動は昨年と様変わりだ」、「賃金も昨年以上に、春闘その他でベアが決定されている」などと発言し、「違い」を強調したようにみえる。
それとも、11月16日に発表される7-9月期のGDP速報値が2期連続マイナスとなる可能性が高まっているなかで、君子は再び豹変するのだろうか。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。