グローバルに活躍する企業が世界的に増えているが、会計基準の違いや人材確保など、現地法人の立ち上げには多くの労力がかかるのも事実。メキシコ人のレニさんは、企業が海外で会社を設立するためのサポートが仕事。成長著しいアジア諸国、とくにシンガポールや中国へと進出を考えているイベロアメリカ(かつてスペインとポルトガルの植民地だった国々)企業の、スムーズなビジネスの船出を後押しするのが仕事だ。南米とアジアに横たわる15時間の時差を物ともせず、少しの工夫で子育ても仕事も充実させる彼女に話を聞いた。

レニさん/メキシコ・クエルナバカ在住/32歳/海外での会社設立コンサルタントP&Pの共同経営者

■これまでのキャリアと今の仕事について教えてください

メキシコのクエルナバカ市で生まれ育ち、大学ではコミュニケーションを専攻しました。大学在学中の夏休みに、何となくイタリア語を学んでみたいとペルージャに2カ月半滞在。これが後に私の人生で大きな意味を持つことになりました。

大学卒業後、修士号を取るためにフランス・ボルドーへ。必修だった1年間のインターンシップ先として、パリの広告代理店を選びました。そこでクライアントから、中国や香港のマーケットの話を毎日聞かされ、アジア文化を体験したいという思いが強くなり、インターンの残りの半年は交換留学制度を使って香港で過ごすことに決めました。

卒業後、そのまま香港で海外での会社設立コンサルティングを行う「CWCC」に勤務。ラテンアメリカの企業が、中国で事業をスタートさせるためのサポートが主な仕事です。とても充実した日々を過ごしていましたが、香港で出会ったオランダ人の夫が2011年にシンガポール転勤を命じられ、中国を離れることに。

シンガポールでの就職先は決まっていませんでしたが「イタリア語が話せる」ということが決め手になり、現在勤務しているPeople & Projects(P&P)にヘッドハントされました。P&Pの設立者3人が全てイタリア人で、従業員やクライアントにもイタリア人が多かったんです。前の会社と同様、イベロアメリカのクライアントがシンガポールや中国でビジネスを始めるためのサポート役を、マネジャーとして担当しました。

しかし、本気で南米のクライアントを増やしたいなら、現地に支社を置く必要があると考え、上層部を説得。2014年にその提案が認められ、メキシコへ異動となりました。今度は夫が私に同伴する形で、今は息子と共に3人で故郷メキシコで暮らしています。

メキシコで行われたアジア地域ビジネスセミナーにパネリストとして参加

■現在のお給料はどうですか?

以前の会社と比べて、お給料は上がりました。というのも、今はP&Pの共同経営者として働いているため、基本給の他に会社の利益の一部も給与としてもらっているからです。イベロアメリカ唯一の支部のトップとして働いているため、責任も増しましたがそれがモチベーションにもなっていますね。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

現在の私のボスは私自身。トップとして働いているので、時間の使い方などに融通がつけられることが気に入っています。デスクワークよりも外に出てクライアントを増やしたり、コネクションを作ったりする方が得意なので、今は南米を飛び回っています。現在20カ月になった息子も、1歳までは一緒に泊りがけの出張にも連れて行っていたんですよ。イベロアメリカに関わることなら、成長戦略や事業計画まで全て任せてもらえることも気に入っていますね。

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

イベロアメリカに住む人々は、何事ものんびり。しかし他の国でビジネスをするためには、その国のルールに合わせる必要があり、会計資料の提出などは期限厳守が鉄則です。「いつ出せますか_」と何度も確認し、やっと提出された書類も不備が多くて「早く直して下さい!」とまた催促。クライアントを追いかけまわしているような気分なり、それがストレスでした。今は部下がその業務を担当してくれているので、大分楽になっています。

■日本人のイメージは?

前に勤めていたCWCCでは、日本デスクとラテンアメリカデスクを除いて全てが中国人でした。そのため、日本人とは「外国人同士」というくくりで親しくなり、お酒を飲みに行ったり、香港の美味しい日本食レストランに連れて行ってもらったのも良い思い出です。

ただ、根から明るくオープンマインドなラテンアメリカ人とは異なり、日本人は「同僚」と「友人」を分けて考えているようで、みんなとても親切ですが、常に目には見えないバリアがあり、真の友人になるのは難しいように感じていました。

仕事面では日本人はみんな規律正しく勤勉で、ラテンアメリカデスクは良く比較されて怒られていましたよ(笑)。例えばクライアントに「火曜日までに必要書類を提出して下さいね」と指示をすると、日本は締め切り前の週の金曜に、ラテンアメリカは締め切りを過ぎた金曜に提出してくるといった具合です。

■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?

9月11日に関東を襲った台風のニュースをテレビで見ました。家や家族を失った方々に心からお悔やみ申し上げたいです。また東北の震災から力強く復興を続けている様子は、いつ見ても心打たれます。

■ちなみに、今日のお昼ごはんは?

ブロッコリーのスープと「アラチェラ」という牛ハラミ部分のステーキ。それにメキシカンビーンズを添えたものです。アラチェラは柔らかく美味しい上に安いので、メキシコではとても人気があるんですよ。値段は200メキシコ・ペソなので、米ドルで11ドルくらいですね。

牛ハラミ部分「アラチェラ」のステーキはメキシコで非常にポピュラー

■休日の過ごし方を教えてください

メキシコとシンガポールや中国では15時間の時差があるので、少し変則的な働き方をしています。

平日は午後5時前に一旦仕事を切り上げて、息子が寝るまで一緒に過ごします。彼が寝たメキシコ時間午後8時頃、中国は午前11時なので、そこから2時間ほど現地と電話やメールなどをやり取りします。

基本的に土日が休みですが、金曜の午後はアジアでは既に週末なので、よりリラックスした感じ。反対に日曜の午後は仕事をすることも多いです。休日は近くの公園で家族に出かけて、そこで走ったりヨガをしたりと汗を流してリフレッシュするのが好きです。

休日は家族と公園でスポーツをして汗を流す

■将来の仕事や生活の展望は?

いつか社会貢献ができる会社を持つのが夢です。メキシコには美しいビーチが沢山あるので、ビーチの近くでヨガや瞑想などスピリチュアルなトリートメントを提供できるセンターを作れたら素敵だなと考えています。

また、来年会社が日本支部を立ち上げる予定なんです。イベロアメリカの国にとって日本は重要な貿易相手国なので、日本でのビジネス拡大に弊社が少しでもお手伝いできたら嬉しいですね!