新UXツール「Project Comet」登場

次に挙げられたテーマは、WebにおけるUIおよびUXのデザインについてだ。

Creative CloudのWebデザインツールは、主にDreamweaverとAdobe Museがある。この使い分けについては、Dreamweaverがデザインとコーディングの両方にフォーカスしているのに対して、Museはデザインのみにフォーカスを当てて最適化しているため、特にコーディングを主としないデザイン作成では、Museの方がシンプルで使い勝手が良いとのことだった。

しかしMuseにはひとつ重要な機能が足りていなかったと、デモを担当したPaul Gubbay氏は指摘する。それはレスポンシブWeデザインへの対応だ。そこでMuseの次期アップデートでは、このレスポンシブWebデザインに対応したWebサイトを作成するための機能が追加される予定だという。これによって、Dreamweaverの同機能のように簡単にブレークポイントを設定し、画面サイズに応じたデザインの変更を行うことができるようになるとのことだ。

レスポンシブWebデザインに対応したMuse。画面サイズに応じてデザインを変えられる

UIデザインのためのツールとしては、Photoshopも一般的に広く使われている。そこで次期PhotoshopにはUIデザインのための新機能がいくつか搭載される予定だ。そのひとつがPSDドキュメントから自動でアセットを抽出して一カ所にまとめる機能。これによって、従来のようにひとつひとつのアセットを個別に抽出するという作業が必要なくなる。

そしてアートボード機能の拡張。アートボードについては新機能として紹介されていたが、これはPhotoshop (2015)ですでに搭載されている機能である。アートボードが作れるようになったことで、複数のデザインを一カ所にまとめて管理・閲覧することができるようになった。なお、新機能としてはレイヤーパネルにアートボードを絞り込むためのフィルターが搭載されるなど、大幅な使い勝手の向上が行われるとのことだ。

Photoshopのアートボード

さらにAdobeでは、UXデザインのための全く新しいツールを開発中だという。この新アプリは「Project Comet」のコード名で開発中とのことで、今回の基調講演では初めてそのデモが公開された。

UIデザインはPhotoshopでも作ることができるが、UXにはインタラクションが必要なため、Photoshopだけでは十分ではない。CometはUXデザインのために必要な新しい機能を備えたツールになるという。デモで紹介されたのは、繰り返しコンテンツを範囲選択とドラッグだけで簡単に作成したり、イラストなどのコンテンツをドラッグ&ドロップだけでレイアウトに合わせた形で貼り込んだりすることができる機能などだ。

画面遷移についてはアートボード上でワイヤーを張ることで直感的に設定できる。リアルタイムプレビューにも対応するとのこと。Project Cometについてはまだ開発途中であり、2016年のはじめ頃、パブリックプレビューが公開できる予定と語られた。

初披露されたProject Cometのデモ画面

数百のアートボードでも軽快に動作する

アートボード上でワイヤーを張って画面遷移を定義

映画「デッドプール」の監督もPremiereユーザーだった

続いてのテーマは、ビデオについて。ここで、来年公開予定の映画「デッドプール」の監督であるTim Miller氏が登場した。Miller氏はAdobeのツールのコアユーザーであり、映画の制作ではPremirer ProやAfter Effectsを活用しているという。なぜAdobeのツールを使うようになったかという質問に対して、同氏は次のように答えた。

「最初はDavid Fincher監督がPremiereを使っていると聞いたのがきっかけです。それ以来長年使ってきましたが、いいこともあれば、スクリーンをたたき割りたくなるくらいの悪い出来事もありました(笑)。しかし今はだいぶ状況が違います。Premiereは今では最高の映画作成ツールと言えるのではないでしょうか」

Tim Miller氏(左)

Miller氏の次にはビデオチームのJason Levine氏が登壇し、Premiere Pro、AuditionそしてAfter Effectsについての新機能を紹介した。

まずPremiere Proでは、カラーの調整を簡単に行えるようになる。さらに、スタイル化されたプリセットが用意されており、一般的によく使われる色調であればさらに簡単に設定できるという。

Auditionでは、Remix機能を使ってビデオとオーディオの長さが違う場合でも動的に調整して合成することができるようになる。長さで調整するのではなく、ビートとハーモニーによって動的に調整するため、自然な形で合成することが可能とのことだ。

Audition Remixで音声と映像を自然な形で合成

そしてAfter Effectについてだが、Adobe Stockに新たにビデオコンテンツが追加され、そこから商用利用可能なビデオを購入して使用できるようになるという。プレビュー用にウォーターマーク付きの映像が使える点も写真の場合と同様で、ライセンス購入後は自動でウォーターマークが削除されるので、正規版を自分でダウンロードし直したりする必要はない。

モバイルでも写真のレタッチが可能に

最後のテーマはフォトグラフィー。ここで、モバイル用の新アプリ「Photoshop Fix」が発表された。Photoshop Fixは、モバイル端末で撮影した画像を修正することができる新しいレタッチアプリで、ブラシ加工やゆがみ修正などといった処理を行うことができる。この修正はレイヤーベースでの非破壊的なものなので、簡単に元に戻すことが可能。デスクトップ版Photoshopの開発で培ってきた技術に基づいて開発されており、極めて高性能な処理を実現しているとのことだ。

Photoshop Fixで顔の表面をレタッチしている様子

既存アプリであるLigthroom MobileやPhotoshop Mixについても、大幅な機能強化が発表された。まずLightroom Mobileだが、デスクトップ版に実装されていたかすみ除去機能が搭載されたことが最も大きな拡張と言えるだろう。そしてPhotoshop Mixでは、3層以上のレイヤーの合成に対応したほか、画像をオーバーレイで合成するなどの機能が追加されている。

基調講演の最後にはBryan Lamkin氏が再び登壇して、「いい写真を撮るためにはいいカメラが必要でしょう」と語り、Adobe MAXの参加者全員に富士フイルム社製のディタルカメラ「X-T10」をプレゼントすることを発表した。この発表は会場を大いに沸かせた。そして最後に次のように締めくくった。

「今回のリリースはみなさんにクリエイティブの自由を与えるものです。時間と場所を選ばずにインスピレーションを与えることができるのがCreative Cloudです。そして逆に、Adobeでもクリエイターの皆さんから多くのインスピレーションを与えられています。引き続き素晴らしい仕事をしていただきたいと思います」

クリエイティブ活動に必要なツールはCreative Cloudで提供される