6月には国内ローコストキャリア(LCC)で初となる機材の自社購入に踏み切り、8月に羽田=台北線と関空=宮崎線を就航、9月にも那覇=仁川線就航と那覇=福岡線増便と、勢いを見せるPeach Aviation。
こうした新機材投入や新路線の実施は、「パイロットの養成に基づいて計画している」と同社の取締役であり運航統括オフィサーでもある角城健次氏は語る。パイロット不足が世界中で問題になっている中、コストマネジメントが命題でもあるLCCのPeachがどのようにパイロット不足に取り組んでいるのか、Peach本社で話を聞いた。
大手も抱える問題「パイロット不足」
そもそも、「パイロット不足」とはなんなのか。9月10日にボーイングが発表した「2015年度パイロットと技術者予測」によると、アジア太平洋地域において2034年までに必要とされる新規パイロットの必要数は22万6,000人という。また、国土交通省が2013年に発表したアジア太平洋地域のデータでも、2030年まで年間約9,000人のパイロット不足を見込んでいる。
日本に関して言うと、2022年には約6,700~7,300人のパイロットが必要であると予測されており、年間で約200~300人の新規パイロットの採用が必要となる。しかし、2030年頃には団塊の世代が退職となることから、年間400人規模で新規パイロットの採用をしなければならない事態が訪れるという(国土交通省調べ)。
LCCのみならず、1社で2,000人以上のパイロットを抱えるようなJALやANAなどの大手も同様にパイロット不足の問題を抱えている。そのひとつの対策として、国土交通省は4月より今まで64歳だったパイロットの年齢制限を67歳に引き上げた。なお、実際に定年を延長するかは各航空会社が労使協議を経て決定される。
JAL・ANAからの教官で自社養成
そんな大手よりも割安な空の旅を提供しているLCCでは、コストマネジメントのためにパイロットも含め実績のあるスタッフを採用する「キャリア採用」が一般的である。その中でPeachは、設立当初からパイロットと整備士に関して「新卒採用」を実施し、自社養成を行っている。
乗務歴39年の角城氏はPeach立ち上げメンバーのひとりであり、ANA時代にはパイロットの指導も行っていた。設立時からパイロットの新卒採用を実施するにあたり、「将来、パイロットが不足することは読めていた。会社を大きくするには機長を育てないといけない、という意識があった」と角城氏は言う。
Peachの自社養成の流れは、まずは現場を知る意味で旅客部や運航部など地上業務を約6~9カ月行い、それからA320の訓練を約3カ月、路線訓練を約3カ月行う。そのため、一人前の副操縦士になるまで1年~1年半くらい必要となる。さらに機長になるには国が定めた3,000時間以上の飛行時間が必要だが、Peachはその1.3倍に当たる4,000時間以上をめどにしている。つまり、新卒が機長になるまでは入社から最低8~9年程度かかることになる。
Peachは2011年2月に設立し、翌年の2012年3月には関空=新千歳/福岡線に就航した。パイロットの現場では会社設立時より、角城氏とともにANAからパイロットの指導ができるスタッフとしてもうひとり、加えて、2010年に経営破たんしたJALを早期退社したスタッフたちでパイロット訓練を行っている。
もちろん、就航に間に合うようにパイロットをそろえる必要があったため、設立時から今日でもキャリア採用は随時行っている。パイロット全体で見てみると新卒採用とキャリア採用の人数は半々程度だという。そして2013年には、就航当初より副操縦士として乗務してきたパイロットが自社養成で初の機長に昇格した。
2014年の大量欠航から学ぶこと
しかし、Peachもパイロットに関してトラブルがなかったわけではない。Peachは2014年5~10月に2,000便規模の大量欠航となった。これは、病気や怪我などで航空法が定める身体検査の基準を満たせず、就業できない機長が8人も発生したことが主な原因で、加えて、新機材を3カ月に1機のペースで投入していたことでパイロットと機材のバランス調整が難しい状況になっていたという。
Peachに限らずどの航空会社も、パイロットの病欠率を計算した見込みをつくっており、その数値に基づいて運航本数などの管理を行っている。そもそもパイロットの数が多い大手に比べるとPeachのような規模の小さな会社では、パイロットひとりが病欠した際の影響が大きくなってしまうのは否めない。Peachは2014年の大量欠航を教訓に、病欠や退職、訓練の不合格(機長は6カ月に1度試験を受ける、現在Peachではほぼ合格率は100%と言う)などのマイナス要素を厚めに計算し、運航に無理のない計画をしているという。
「アジアの空をピンクに染めよう」
そして現在、Peachは16号機目のA320を7月に導入し、17号機目を12月末頃に受領する予定となっている。この17機は全て新造機をリースで調達しているが、6月に発表した18・19・20号機導入は国内LCCとしては初となる自社購入に踏み切った。21号機以降に関してはどんな機材を導入するかまだ検討段階だという。
LCCは通常、単一機種での「ポイント・トゥ・ポイント」という戦略で、運航効率の高さをもって利益を生んでいる。しかし、角城氏自身が思い描く"Peachの野望"としては、「我々は20機を保有する会社で満足していない。これから50機や100機と機材を増やし、飛行時間が4時間よりも長い機材、中型機の320だけでなく大型機を含めた導入も考えていきたい」と話している。
実際、パイロット仲間で「アジアの空を(Peachのコーポレートカラーである)ピンクに染めよう」などと話すこともあるそうだ。そして角城氏は、「その時はこんな飛行機がいいなと話したりしていて、彼らもA320の1機種だけだと思っていない」と言う。
パイロットは客室乗務員とは違い、乗客と直接接する機会が少なく、唯一の接点と言えば機内放送だろう。Peachは機内放送の仕方にフォーマットはなく、角城氏も機長には素直な気持ちで「ありがとう」を伝えてほしいと指導しているという。そのため、時には関西弁、時には鹿児島弁で機長からの"気持ち"が機内放送で流される。
角城氏自身、ANAからPeach設立メンバーの打診を受けた際、新しい会社をつくれることに「おもろいやないかい」という気持ちがあったそうだが、実際、そんな気持ちでPeachで活躍している人も少なくないという。なかなかその姿を見ることがないPeachのパイロットたちは、そんな気持ちで日々乗務に当たっている。