オバマ政権に弱腰との批判に晒されていたベイナー下院議長が辞意を表明
米連邦政府の新しい会計年度である2016年度が10月1日に始まった。予算が手当てされたのは年度開始のわずか数時間前で、それによって政府機関の閉鎖という事態は回避された。ただし、成立した予算は暫定的なもので、12月11日までの72日間をカバーするにすぎない。また、暫定予算の成立にあたっては、大きなコストも支払われた。歳出削減を強硬に主張する共和党内の保守派を取り込むために、オバマ政権に対して弱腰との批判に晒されていたベイナー下院議長(共和党)が10月末での辞意を表明している。
今後、12月11日以降の予算についての交渉が再開されることになる。来年11月の大統領選挙前に党派的対立が激化するのを避けるため、2年間の予算の大枠を決めようとの動きもあるようだ。ベイナー下院議長が残り少ない在任期間中に、あるいは新しい下院議長が予算交渉をまとめることができるのか、現時点では極めて不透明だ。
今後、デットシーリング(債務上限)の問題も浮上
今後、デットシーリング(債務上限)の問題も浮上してくる。債務上限は一時停止されていたが、今年3月に復活した。そのため政府は債務を増やすことができず、公務員年金に対する特別な国債の発行を停止するなど、「異例の措置」によって資金繰りを続けている。しかし、そうした「裏ワザ」も10月末には尽きるらしい。デットシーリングの引き上げがなければ、その時点から手元資金で賄える分しか支出ができなくなる。そして、その手元資金も11月末か12月中には枯渇する見通しだ。
予算措置が間に合わずに政府機関の一部が閉鎖された例は近年でも何度かある。1995年11月-96年1月には、クリントン大統領と共和党議会の対立のもとで、政府機関の一部が2度、計26日間閉鎖された。オバマ政権下の2013年10月にも予算交渉の難航によって16日間の閉鎖があった。これにより国民が多大な不便を被ったことは間違いない。ただ、いずれの局面でも株価は下げ、ドルも下落したが、程度は限定的だった。政府機関の閉鎖が短期間かつ一時的であることが分かっていたからだ。
国債の利払いが滞るとデフォルト(債務不履行)
一方、デットシーリングはもっと深刻な事態を引き起こしうる。デットシーリングの引き上げが遅れると、予算措置が必要な支出だけでなく、政府債務の増加につながる支出は一切できなくなる。社会保障や国債の利払いとて例外ではない。そして、国債の利払いが滞るとデフォルト(債務不履行)となる。
米国の国債がデフォルト(債務不履行)を起こしたことは過去に一度もない。ただし、投資家は、元本の償還や利払いが確実な、安全な商品として米国債を購入している。デフォルトの可能性が少しでも高まるようなら、金融市場は大きく動揺するかもしれない。2011年8月には、デットシーリングの引き上げが土壇場まで遅れて、まさしくそうした事態が起こった。国債が格下げされたこともあって、NYダウは2000ドル近く下落し、ドル円も5円ほど円高になった。もっとも、その後もデットシーリングは何度も財政バトルの道具として使われてきた。金融市場はデットシーリング問題にある程度の耐性ができているかもしれない。
10月や12月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、利上げの開始が真剣に検討されるはずだ。財政バトルがFOMCの判断に影響を与えかねない点にも留意する必要はあるだろう。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。