"老舗のそば屋"と聞くとちょっと敷居を高く感じてしまうのは、筆者だけではないだろう。今回訪れたのは、神奈川県横浜市の関内のそば店「中屋」。明治10年に創業し、昭和29年にこの地に店を構えたという老舗だ。そして同店には、大盛りの上をいく"デカ盛り"メニューがあるという噂。老舗のデカ盛りとはどのようなものか、さっそく挑戦してきた。

"大大盛り"のそばの重量はなんと約1.3kg

老舗そば店のデカ盛りとは!? 

「いらっしゃいませ! 」店に入ると、おかみさんの坂部訓子(のぶこ)さんが張りのある元気な声で出迎えてくれた。勝手ながら、"老舗のそば屋"というと「頑固そうなおやじさんが黙々とそばを打っている……」というイメージを持っていたため、明るいおかみさんの登場にホッとする。

同店では、普通盛りにプラス150円で大盛り、プラス350円で"大大盛り"に変更できる。今回は「天ざる」(1,350円)の大大盛りに挑戦! おかみさんは、「はい、天ざる(1,350円)の大大盛ね。うちのそばは普通盛でも大盛りになるボリュームだけど、大丈夫? 」と気遣ってくれた。

さらに、「盛りが多めのメニューを注文するなら、トッピングをつけるのもおすすめですよ」との提案も。食べ進めるうちに味が単調になるため、味わいに変化をつける「しょうが」「みょうが」(各150円)、「とろろ」(400円)といったトッピングを用意しているのだそう。うどんやそうめんにしょうがはわかるけど、そばにしょうがはおもしろい! ということでトッピングは「しょうが」に決定だ!

1.3kgのそばの山と格闘開始

まず運ばれてきたのは、エビにエリンギ、ナスの天ぷら。どれも一つひとつが大きく、エビなど器からはみ出している。衣も見るからに香ばしそうで、思わずゴクリとのどが鳴った。「天ぷらは季節によって材料を変えているんですよ」とおかみさん。「天ざる」は、旬を味わえるメニューなのだ。

天ぷらは、器からはみ出すほどのボリューム

天ぷらでこの盛りっぷりなら、そばの盛りは一体どれほどのものなのか……。思案していると、のれんの奥から両手でお盆を持った店員さんが現れた。「お待たせしました。大大盛りです! 」。

こんもり・たっぷりと盛られたその麺の様は、そばというよりむしろ"山"だ。器の大きさを測ってみると、直径は約25cm。高さは約15cm。店員さんによると総重量は約1.3kgで、普通の盛りの3倍はあるそうだ。

そばの高さをスマートフォンで比較。高さは約15cmだった

麺はそば粉7割、小麦粉3割の自家製で、季節やその日の気温・湿度に応じて水分量も調整しているそう。そば粉と小麦粉のほか、卵と酒も入れて風味を出しているという。

お店の入り口には、その日に打ち込んだ素材を知らせる看板が。この看板を見て、来店するお客さんも多いそう

特徴的なのは、生地に別の素材を混ぜて打ち込んだそばを提供する日もあることだ。おかみさんによると、「今日、生地の中に打ち込んだのは『なめこ』。そのほか、『黒ごま』や『笹』『こんにゃく』『昆布』『とろろ』などを入れて出す日もあります」とのこと。ほかにも、五十日(ごとうび: 5日、10日など、5と10が付く日)には茶の葉を打ち込んだ「茶そば」を提供。桜が咲くころには「桜の葉」を打ち込んだ香りのよいそばを用意するほか、夏にはそばの上に錦糸卵やちくわ、いんげん、揚げ玉、味付け刻み油揚げなどをのせた「夏そば」、寒い冬には、揚げたての天ぷらをのせた熱々の天ぷらそばも出すそうだ

そばはゆでたてが一番、ということで早速実食を。今回の麺にはつなぎとしてなめこが打ち込まれているとのことだが、麺の色は普通のそれと変わらない。すすってみても、なめこの味が前面に出ているわけではなく、その旨みと粘りが練りこんであるといった印象だ。これなら、きのこ類が苦手な人でも食べられそう。

まずは薬味を入れず、つゆの味だけで食べてみる。だしにはかつお節・そうだ節・さば節をブレンドしたものを使用。「つゆの味は甘め。冷やしの場合、しょうゆのかどを取るため1日ねかせています」とおかみさんの言う通り、つゆの味は濃すぎず、そばの風味も存分に感じられる。

続いては薬味を入れて。薬味は「ねぎ」「わさび」「うずら」の3種類。中でもおかみさんこだわりの薬味が「ねぎ」で、その日に仕入れた一番おいしい部分だけを選んで提供するのだそう。

薬味は「わさび」「うずら」「ねぎ」の3種類

こだわりの「ねぎ」をそのままひと口食べてみる。切り方が絶妙なのか、シャクシャクとした食感ながら、空気を含んだふわふわした口当たりだ。麺とともに食べると、ピリッとした刺激と風味でそばがいっそうすすむ。

人気トッピング「しょうが」で完食をめざす

そばの"山"へのアタックも中盤に突入したあたりで、トッピングの「しょうが」も試してみることに。針のように細く、きれいな切り口のしょうがは、全て手で刻んでいるのだそう。「しょうがは形や繊維の方向がひとつひとつ違うでしょう? スライサーで切るよりも手で刻む方が口当たりもよく、きれいに仕上がるんです」。

切り口がきれいなトッピングの「しょうが」(150円)

つゆに「しょうが」とそばを入れて一口。薬味の「ねぎ」とはまた異なる爽やかさと、やや歯ごたえある食感が心地よい。つゆの風味としょうがの香りもぶつかり合わず、調和している。夏はもちろん、冬の冷えた体も温められるため人気のトッピングだそうだ。

好みの量の「しょうが」をのせて

「ただいま~」と帰りたくなるお店

もともと、同店のそばは創業当時から盛りが多かったそうだ。「おそばだけじゃおなかがいっぱいにならないという声、よく聞くでしょ? 当時も同じで、それならそば1杯でもしっかり満足できるように、と先代が盛りを多くしたんですよ」とおかみさんは語る。

その盛りが多いそばをもっと大盛りで食べたい、という常連客の声に応えて「大大盛り」が誕生したのが、今から約30年前。考案したのはおかみさんのご主人だそうだ。オーダーするのは40代~50代の働き盛りの人が多いが、中にはご年配もいるという。1.3kgというボリュームにもかかわらず、多くの人は完食するというのだから驚きだ。

そばの味はもちろん、温かいお店の雰囲気も印象深かった。今回、訳あって筆者は小学生の子どもを伴っての来店となったのだが、「ほらほら、お口のまわりにおそばがついてるよ」「おつゆは足りるかな? 」とおかみさんが気づかってくれた。四季折々のそばを温かい雰囲気の中で楽しめる「中屋」。季節ごとに訪ねて「ただいま! 」と入って行きたいおそば屋さんだ。

「中屋」店舗外観

●information
所在地: 神奈川県横浜市中区弁天通3-45
営業時間: 10:30~15:00(土曜日は~14:30),17:00~20:00(ラストオーダー) ※夜は貸切の時もあり
定休日: 日曜日・祝祭日

※記事中の情報・価格は2015年9月取材時のもの。価格は全て税込

筆者プロフィール: 麦原ケイ(むぎはらけい)

猫とビールと唐揚げとコーヒーが好きな神奈川県・横浜在住の主婦ライター。所属する「ベル・エキップ」は、取材、執筆、撮影、翻訳(仏語、英語)、プログラム企画開発を行うライティング・チーム。ニュースリリースやグルメ記事を中心に、月約300本以上の記事を手がける。拠点は東京、大阪、神戸、横浜、茨城、大分にあり拡大中。メンバーによる書籍、ムック、雑誌記事も多数。