アクロニスCEOのセルゲイ・ベロウゾフ氏が、去る9月9日に都内で開催された同社新製品「Acronis True Image Cloud」「Acronis True Image 2016」の発表会にあわせて来日。発表会後にセルゲイ氏からお話を伺った。製品の概要や発表会については、別記事を参照いただきたい。

アクロニスCEOのセルゲイ・ベロウゾフ氏

今回の大きなポイントのひとつは、「Acronis True Image Cloud」にて容量無制限のクラウドストレージが提供されることだ。バックアップの保存用だけでなく、様々なデバイスのデータを保存したり、共有や同期したりできる。また、最新バージョンでは、WindowsマシンやMacに加えて、Android端末とiOS端末のデータバックアップにも対応した。

Acronis True Image Cloud (Acronis Cloudストレージ付き/1年単位のサブスクリプション制)

Acronis True Image 2016 (Acronis Cloudストレージなし/永続ライセンス)

モバイルデバイスのバックアップ

Webの管理画面上で複数デバイスの保護

クラウドアーカイブ

コンシューマープロダクトに注力する3つの理由

―― 2003年の創設より今日まで、コンシューマーマーケットにおける事業を続けてきた理由やポリシーを教えてください。

3つの理由があります。まずひとつ目が、「データが失われることが絶対にないように、すべてのデータを守る」という理念です。クラウドテクノロジーが発展してきた今日では、すべてのデータを管理することがかなり難しくなってきています。そのような中で、弊社は扱うデータを保護するテクノロジーを独自に開発してサービスを展開しており、「データを保護すること」を最も重視しています。

次に、バックアップを早く、簡単に行える技術を持っていることです。デバイスの数、クラウドサービスの数が増えるつれ、扱うデータも増える中、迅速かつ簡単な方法でデータを守る必要があります。そこで弊社では、信頼のおける最先端の技術を独自で開発しています。

最後は、コンシューマープロダクトに注力し、売上げを伸ばしていきたいと考えているからです。というのも、昨今では企業も個人もITツールをふんだんに活用するようになり、企業とコンシューマーとのボーダーが消えてきています。そのため、誰もがユーザーとなり得るのです。今後も引き続き、コンシューマーマーケットにおけるブランディングの強化、価値の訴求を進めていきたいと考えています。

誰もが"何かしらのデータを損失した"という経験があるのでは

―― "データを守る"ことを重視しているということですが、これはご自身の経験などから来ているのでしょうか。

「Acronis True Image Cloud」では、パソコンやスマートフォンなど複数のデバイスバックアップデータを一括管理できる

誰もが"何かしらのデータを損失した"という経験があるのではないでしょうか。私にも数え切れないほど、苦い経験があります。

たとえば、以前、シンガポールで立ち上げた企業で扱っていたデータがすべて消え、大きな損失を受けました。サーバーは信頼できる良いものを採用していたのですが、ある時システムが壊れ、すべてのデータが消失してしまったのです。その時に初めてデータがバックアップされていなかったことが発覚し、当然データを復旧させることはできませんでした。

また、私の家庭での話になりますが、妻のiPhoneが壊れて、そこに保存してあった子どもの写真が消えてしまったことがあります。バックアップを取れていなかった分は復旧できず…… 当時は赤ちゃんだった子どもも、もう大きく成長したので、あの頃の写真は戻ってきませんね。

それと弊社の製品は、バックアップだけが目的ではなく、どんなデータがどこにあるのかを把握するといった役割も担っています。

私の場合、出張の機会が多く、パソコンやスマートフォンなど複数のデバイスを使用しており、それぞれに異なるデータが保存されています。加えて、昔使っていたパソコンもあったりと、どのデータがどこにあるのか完璧に把握するのは不可能でしょう。

オンライン上のデータも同様で、様々なサービスがあるがゆえ、管理が複雑になります。以前、HotmailやYahoo!メールなど複数のメールアカウントを使用していたのですが、どこにどの情報があるか把握できなくなってしまいました。

このように混在したデータをひとつの場所で管理できたら、便利じゃないですか? 一カ所に集めておけば、探したいデータがすぐに見つかるだけでなく、データを消去したいときにも便利です。

2時間の歯磨きは誰もやらない

―― なるほど。これを実現できるのが「Acronis True Image Cloud」なのですね。今回発表された新製品では、バックアップ速度がさらに向上したとのことですが、なぜこれだけのスピードを実現できたのでしょうか?

弊社ではパフォーマンスを追求する特別なチームを抱えており、あらゆるデバイスへの最適化、異なるストラクチャーの読み込み、ネットワークへのアップロードなどを常に強化しています。そして現状のスピードに満足しているわけではなく、将来的にはもっと速くしていきたいと考えています。

なぜこれほどパフォーマンスの強化に力を入れているかというと、バックアップ作業において迅速さはとても重要だからです。たとえば、歯磨きに置き換えて考えてみましょう。歯磨きに2時間かかるといわれたら誰もしませんよね。20分であれば何人かは「やってみようかな」と思うかもしれません。2分、20秒と時間が短ければ短いほど、確実にその人数は増えるでしょう。これと同様で、バックアップに時間がかかれば誰もやろうとは思わないでしょう。

―― 日本に製品を投入してから15年ほど経ちますが、その間、日本の市場特長やマインドなど何か印象に残っていることはありますか?

日本ならではの特長はたくさんあります。まず、規律正しいユーザーが多いということですね。正しい順序でバックアップを行ってくれるので、ソフトウェアやサービスを提供する側としては助かっています。

また、日本では多くの人が自然災害の影響を受けた経験があったり、この先直面する危険性があります。災害が原因とは限りませんが、ハードウェアの故障を想定すると、データをパソコンやハードディスクに保管しているだけでは完全に安全とは言えず、クラウドストレージへのバックアップの必要性が見えてきます。そして、ハードウェアはいつか壊れるものなのです。

このように、もともと日本はバックアップが浸透しやすい文化であったのではないでしょうか。反対に、世界にはまだバックアップに対する意識が低い人も多くいます。たとえば、衛生観念について考えてみてください。日本では多くのトイレに温水洗浄便座が完備されていますが、他の国では「そんなものは必要ない」という人もしばしば見受けられます。これには文化的な意識の違いが大きく影響しています。しかし本当に便利なものであれば、遅かれ早かれ誰もがその必要性を感じることになるはずです。

ユーザーがすべてのデータを完全に管理できるように

―― 今後のビジョンを教えてください。

「ユーザーがすべてのデータを完全に管理できるようにする」これが私たちの目標です。

今後、デバイスやクラウドサービスが増加するに伴い、扱うデータの種類も量も同じように増え続けるでしょう。そのような中、バックアップはもちろんのこと、データの検索、修復、移行、同期、重複制御などすべての作業をユーザー自身で簡単にできたら便利ですよね。これを実現できるよう、製品を進化させていきたいと考えています。

―― 最後に、日本のユーザーに向けてメッセージをお願いします。

新製品「Acronis True Image Cloud」には、モバイルデバイスのバックアップ、バックアップデータの一括管理、クラウドアーカイブの機能が新たに追加されました。この3つの機能が搭載されたことで、より多くの人に使っていただけるのではないかと考えています。

またデータをバックアップするツールとしてだけでなく、データの「保存先」としても活用できるようになりました。データは2つの異なる場所に保存することによって、安全性が飛躍的に高まります。「Acronis True Image Cloud」がその保存場所の1つになったと認識しています。ぜひ今後も、アクロニスのテクノロジーを活用していただければ嬉しいです。

モバイルデバイスのバックアップ(画面はiOS)

複数デバイスのバックアップデータを一括管理

ローカルPC上の各種ファイルを、クラウドストレージへアーカイブできる