法事や仏事の引き出物といえば、饅頭をはじめとする和菓子が一般的だろう。しかし、島根県松江市では少々事情が異なる。なんと法事の際にパンが配られるというのだ。しかもその種類は実にバラエティ豊かで、あんパンもあれば、メロンパンやクリームパンまであるんだとか。一体なぜそのような風習が一般的になったのだろうか?
饅頭からパンに変わった理由は……
今回、その疑問に答えてくれたのは、島根県松江市に2店舗を持つ「kitchen okada(キッチンおかだ)」。自家製酵母パンから無添加食パン、菓子パン、調理パンにいたるまでの焼きたてパンの他、焼き菓子や手作りジャムまでをそろえる地元の人気店だ。
早速、同店で働く島貫有加さんに、法事にパンが使われるようになった経緯についてうかがったところ、「もともと饅頭だったのがいつの頃からかパンになったようです。饅頭よりパンの方が喜ばれたからと聞いたこともありますね」と実にふんわりした回答。
しかも、「チョコレート会社がバレンタインデーを盛り上げたように、この地方のパン屋さんがパンの売上増のために企画したのではないかと密かに思っています」という楽しい意見まで聞かせてくれた。
島貫さんによるとこの地域では法事パンを扱うパン屋は多く、とりわけ経営年数が長い店ほど、法事パンを販売している傾向にあるのだとか。しかし、普通のパンと法事パンの違いってなんだろう?
すると再び、「違いは特にありません。蓮の花の絵柄が付いた袋にいれて箱詰めすれば法事パンになります」となんともざっくりだ。さらに、「法事パンはこうあるべき」などの定義も特にないというが、強いて言うなら、当日食べられるとは限らないため日持ちするパンを選ぶことが多いのだとか。
「包装する際、日持ちを考えて添加物を入れる店もあるようですね。でも、当店では何も入れていないので日持ちしません」と島貫さん。キッチンおかだが法事パンとしても販売しているパンは、苺ジャムパン(140円)、メロンパン(150円)、たなべのたまごと木次牛乳のクリームパン(150円)、無添加あんぱん(150円)、ヨーグルトパン(150円)、キッチンマドレーヌ(180円)など。
カレーパンやヨーグルトパンも法事パンに
「法事パン」は昔からの風習のため、他店でも同様にあんパンやメロンパンなどの王道パンが使われることが多いのだとか。また、これといった定義がないからこそ、故人が好きだったパンを採用することもあるそうで、「カレーパンやヨーグルトパンを蓮の花の絵柄が付いた袋にいれてお渡ししたこともありますね」と島貫さん。
キッチンおかだでは、蓮の花の絵柄入り袋にいれた後は白い箱に詰め、のしをつけて「法事パン」を完成させるが、のしには字入れもできるという。
最後に、この風習の展望について尋ねてみると、「松江近隣の風習に留まることなく、全国に広まってパン業界の活性化につながってくれたらとの淡い期待を抱いております」と明かしてくれた。
「パンが好きでない人は少ないと思うし、いろんな種類があればきっと喜ばれるはず。パン屋側の事情はさておき(笑)、お渡しする方に喜んでいただきたいとの想いで始まった風習だと思うので、これからもたくさんの人に喜んでもらいたいですね」。
島貫さんのメッセージに共感を覚えるという人は、これからは贈り物の機会がある度、パンも候補にいれてみてはいかが?
※記事中の価格・情報は2015年9月取材時のもの。価格は税別