「現状維持」は概ね市場の予想通り
9月17日、米FRB(連邦準備制度理事会)は、FOMC(連邦公開市場委員会)において金融政策の「現状維持」を決定した。8月上旬の時点で、市場では5割以上の確率で「9月利上げ」が織り込まれていたが、8月中旬以降に中国株の暴落など金融市場が動揺するなかで、利上げ観測は後退していた。その意味では、「現状維持」は概ね市場の予想通りだったと言えるかもしれない。
声明文には、「最近のグローバルな経済・金融情勢は、経済活動をいくぶん抑制する可能性があり、目先のインフレ率に一段の下方圧力を加える公算が大きい」との、前回(7月29日開催)にはなかった一文が追加された。また、「海外情勢を注視する」との意向も表明された。やはり、8月以降の世界的な株安や景気減速懸念が利上げ見送りの重要な要因になったようだ。
イエレン議長はFOMC後の会見で、「海外の見通しが足もとで一段と不確実になっており、中国やその他の新興国に対する懸念の高まりが金融市場の顕著な変動につながっている」と述べ、具体的に「中国」に言及した。
今回の決定に対して投票メンバーの1人が、利上げを主張して反対票を投じた。一方で、声明文と同時に発表されたFOMC参加者の政策金利見通し(いわゆる「ドット」)は、2017年にかけて全般に下方修正された。
サプライズだったのは、マイナス金利を予想した参加者が1人いたこと
サプライズだったのは、マイナス金利を予想した参加者が1人いたことだ。つまり、次の一手として「利上げ」ではなく、「利下げ」ないしはそれに代わる「追加緩和」を予想する参加者がいたことになる。イエレン議長は会見で、「大半の参加者が引き続き年内の利上げを想定している」、「追加緩和が真剣に議論されたわけではない」と述べたものの、ここでも景気に対する懸念が示された格好だ。
金融市場は少しずつ落ち着きを取り戻しているようにみえる。金融市場がこのまま落ち着きをみせ、今後発表される経済指標で8月以降の金融市場の動揺の影響が限定的であることが明らかになれば、10月以降のFOMCで、改めて利上げが検討されるだろう。ただし、「年内の利上げ」は微妙になった。政策金利(FFレート)の先物によれば、今回のFOMC後に金融市場が織り込む利上げ確率は、今年10月が2割弱、年内が4割程度にまで低下している。イエレン議長にとって悩ましい日々が続くのかもしれない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。