Windows RTを搭載したタブレットデバイス「Surface RT」は、筆者が改めて述べるまでもなく商業的な失敗に至った。2013年10月にはWindows RT 8.1を搭載したSurface 2をリリースしたが、その後続モデルのSurface 3はOSにWindows 8.1を採用した。
Microsoftは2015年1月の時点で、Windows RT 8.1からWindows 10へのアップグレードは提供しない方針を表明していた。だが7月に、MicrosoftのGabriel Aul氏がTwitterで「Windows 8.1 RT Update 3のリリースを9月に予定している」とツイート。そして、9月15日にMicrosoftは「Windows RT 8.1 Update 3」をリリースした。
まずは更新箇所を確認していくが、何をおいても紹介すべきは復活したスタートメニューだ。ただし、Windows 10が採用したXAMLベースではない。そもそも本アップデートを適用しても、Windows RT 8.1はWindows 10互換とはならない。Windows 10で加わった新たなAPIを使用できないからだ。Windows RT 8.1のスタートメニューは、Windows 8.1のコードをベースにしているため、「DirectUIスタートメニュー」と呼ばれている。
上図のとおりWindows 10のスタートメニューとは構成が異なり、左上からユーザー名、ピン留めしたリスト、MFU(もっとも頻繁に使用する)アプリケーションリスト、すべてのアプリケーション、検索ボックス、そして右側にWindowsストアアプリをピン留めする領域を用意した。Windows 10がTechnical Previewだった時代のスタートメニューに近い構成だ。
また、<すべてのアプリケーション>を開くと、スタートメニューの左側部分がそのままアプリケーション一覧に切り替わる。Windows 10のスタートメニューと異なりセマンテックズームのようなアプリケーション名の頭文字は現れないが、Windows RT 8.1でも検索ボックスを使用すれば大きな問題にならないだろう。
「タスクバーとスタートメニューのプロパティ」の<スタートメニュー>タブには、新たに<カスタマイズ>が確認できる。これは、ピン留めしたリストの内容を変更するためのボタンだ。<開く>ボタンからはタイルのキャッシュデータサイズの変更が可能だ。
他にもサインイン画面やスタートメニューのユーザーアイコンが丸くなるなど、いくつかの変化を確認できるが、Windowsストアアプリはウィンドウ表示に切り替えることができず、キーボード着脱時にタブレットモードに切り替わるContinuumも未実装だ。当初から「小規模なアップデートに留まる」というアナウンスがあったものの肩透かしを食った気分は否めない。
さて、スタートメニューの復活でWindows RT 8.1は使いやすくなるかという点に自問自答してみる。確かにエクスプローラーやExcelに代表されるOfficeスイートはウィンドウ表示できるため、スタートメニューとの親和性は高い。だが、Windowsストアアプリ起動時の違和感は上図を見れば明らかだろう。
また、Windows RTはARMアーキテクチャ上で動作するOSのため、IA-32アーキテクチャ専用のWindowsストアアプリも動作しない。今後増えて行くであろうユニバーサルWindowsアプリも動作しないはずだ。これらを鑑みると、状況は変化していないと述べるのが正しいだろう。
ちなみにMicrosoftは再びIntel系プロセッサのみに傾倒した訳ではない。現在開発中のWindows 10 MobileやWindows 10 IoT Editionは、IA-32アーキテクチャの他にARMアーキテクチャ(v7/v8)もサポートしている。そのため、Windows RT 8.1からWindows 10 Mobileへアップグレードというシナリオも考えられるが、Microsoftのスタンスや戦略を俯瞰すると、その可能性も皆無と言わざるを得ない。
所有者としては悲しい事実だが、ARM搭載デバイスであるSurface RTとSurface 2は袋小路に入り込み、PCの歴史から忘れ去られてしまう存在になるのだろう。
阿久津良和(Cactus)