9月4日、日本時間21時30分に発表された米8月雇用統計は、失業率が5.1%と市場予想の5.2%を下回り2008年4月以来の水準に改善した一方、非農業部門雇用者数(NFP)は前月比17.3万人増と市場予想(21.7万人増)を下回り節目とされる20万人増に届かなかった。
一見すると強弱マチマチの結果であり、ドル/円が発表直後に乱高下した動きから見ても、米8月雇用統計を巡る市場の評価は割れていると思われる。
しかしながら、その内容を確認してみると決して弱くない事がわかる。まず、NFPは前月分と前々月分の合計で4.4万人も上方修正されており、3カ月平均では22.1万人増と好調を維持した。失業率は米連邦公開市場委員会(FOMC)の見通しを上回るハイペースで改善(6月時点における予想で2015年10-12月期の平均失業率を5.2-5.3%としていた)した事になる。
また、8月の平均時給は前月比+0.3%と前月の+0.2%から伸びが加速、前年比でも+2.2%と堅調だった。さらに、8月の不完全雇用率(仕方なくパートタイムに就く労働者や職探しを諦めた者も含めた広義の失業率)は10.3%と、前月の10.4%を下回り、2008年6月以来の水準に改善した。このように、米8月雇用統計は派手さこそないものの、本来なら9月利上げに向けたGOサインと解釈されてもおかしくない好内容だったと思われる。
ただ、市場は中国に端を発する世界景気減速を強く警戒しており、世界的に株式市場や商品市場で不安定な相場展開となった事が米国の利上げ観測を後退させている。そうした中、FOMCは不安定な市場環境に目を瞑ってまで利上げを断行する理由を示す事はできないと見るのが自然だろう。したがって、9月FOMCでの利上げの可能性は著しく低下したと考えているが、市場の落ち着きと9月雇用統計(10月2日)の結果を待って10月FOMC(27-28日)で利上げを発表する可能性は十分にあると考えている。
執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。