中国の外貨準備が8月の一か月間で939億ドル減少

中国の外貨準備が今年8月の一か月間で1,000億ドル近く、正確には939億ドル減少したことが、市場で話題になっている。中国の外貨準備の減少は、ドル売り人民元買いの外為市場介入の結果とみられる。中国は8月11日に事実上の人民元切り下げとなる基準レートの新しい決定方式を発表した。その後、人民元が下げ止まらなくなったため、今度は慌てて人民元の買い支えに回っていた。

中国の外貨準備減少は、主に次の2つの文脈で語られているようだ。

一つめは、日本円にして約12兆円という極めて巨額であり、そうした介入は続けられないのではないかという点。

そして、もう一つは、外貨準備のドル売りは、すなわち保有する米国債の売却であり、米国の金利上昇につながるのではないかという点だ。

それぞれについて、以下に考察してみたい。

中国当局は介入を「続けられない」のではなく、力ずくの介入は「続けない」

まず、中国は8月末時点で、約3兆6,000億ドルの外貨準備を保有している。これは世界の外貨準備の32%に相当する規模だ(金を除く)。もちろん、外貨準備が消滅するまで介入を続けることはありえないが、それでもまだまだ余裕はありそうだ。

中国の外貨準備のピークは2014年6月末で約4兆ドルだったが、その後減少傾向が続いてきた。この間、人民元の対ドル相場は上昇、下落、横ばいの局面があり、明確な方向感はなかった。したがって、外貨準備の減少がどの程度まで介入の結果だったのかは、実はハッキリしない。

中国は人民元の国際化を進めている。そして、国際化の重要な要件の一つは、人民元相場の決定に市場メカニズムが反映されることだ。したがって、急激な相場変動には対応するが、人民元の緩やかな下落(や上昇)は容認されるだろう。中国当局は介入を「続けられない」のではなく、力ずくの介入は「続けない」のではないか。

世界的な株安の震源地とされる中国が、米国を挑発する行動に出るとは考えにくい

二つ目の点について、中国が今年6月時点で保有する米国債の残高は約1兆3,000億ドルだった。ほとんど外貨準備分だとみられるが、外貨準備に占める米国債の比率は1/3程度に過ぎない。そして、この保有残高は外貨準備がピークだった2014年6月からほとんど変化していない。つまり、ドル売り人民元買いの介入を行うとしても、必ずしも米国債を売却する必要はない。少なくとも、これまではそうだった。

中国の外貨準備高と米国債保有額

(米国からみて)外国政府による米国債の売却というと、1997年6月のエピソードが想起される。当時の橋本首相が訪米中に、米国政府からの円高圧力に対して、保有する米国債を売りたい誘惑に駆られそうになったことが何度かあると発言して物議を醸した。もっとも、世界的な株安の震源地とされる中国が、敢えて米国を挑発するような行動に出るとは考えにくい。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。