私は「眼鏡スタイリスト」という肩書で仕事をしています。その肩書を聞くと、「私に似合う眼鏡を教えてください」と初対面の人にあいさつ代わりのように言われることがよくあります。
誰に「似合う」と思われたいのか?
「似合う眼鏡」って、一体なんでしょう? 誰に「似合う! 」って思われたいんでしょうか。自分でしょうか。家族? 友人?? それとも、今から出会う人? そこが漠然としている人が多いです。
「似合う」って正直、主観だと思っています。100%の人が「似合う」と思うことはまずありえないからです。育った環境が違えば、常識も違う。経験も趣味も異なります。「それじゃあ、なんでもいいのか? 」というと、そうでもないです。
「顔の形に合わせた似合う眼鏡の選び方」というフレーズをよく耳にします。「丸顔には●●形」とか「眉毛に合わせて」とかも。
でもそんなことを言っている眼鏡屋さんに限って、世の流行が四角い眼鏡だったら四角、丸眼鏡だったら丸を選んでいることが多いです。もうその時点で、このアドバイスは矛盾してしまいます。
「似合う眼鏡」とは何なのか
じゃあ、「似合う眼鏡」って何なのでしょう。
顔だけで見ると、「似合う眼鏡」はたくさんあります。でも、きっと多くの人が言う「似合う眼鏡」とは、「自分らしい眼鏡」のことを指すのでしょう。すなわち、環境や仕事、性格、好きなものを兼ね備えた顔にフィットする眼鏡です。
私がスタイリングする上で一番大切にしているのは、掛ける本人がその眼鏡を身につけていて「幸せ」だということです。そして、その人らしいこと。
眼鏡は顔のど真ん中にあります。掛ける眼鏡が違うだけで、自分も他人も気持ちが違ってきます。ここで重要になってくるのは自分なりの「似合う眼鏡の基準」、いわゆる主観です。
買うときはいいと思っていたけど、使用しているうちになんだか似合わなくなった経験ありませんか? 「なんとなく買い」をしていると、いつまでたっても失敗の連続。その原因は自分の「好き」という感情が入ってないからです。
どんな眼鏡が好きなのか?
どんな眼鏡姿が好きなのか?
それが答えられるようになったとき、「自分に似合う眼鏡選び」のスタートラインに立てているはずです。
「似合う眼鏡基準」の作り方
ではここから、「似合う眼鏡基準」の作り方を教えていきましょう。
(1)眼鏡感度をあげる
とにかく、眼鏡へのアンテナを張ってください。街行く眼鏡人のチェック、テレビや雑誌を見ながら眼鏡探し。1週間、いや3日間でもいいので、身の回りにある眼鏡に注目してみてください。
だんだん、「黒縁かけている人が多いな」「あの人の眼鏡姿は渋いな」「あんな眼鏡初めて見た! 」などの発見が次々出てきます。今まで気にしてないだけで、あなたの身の回りは眼鏡にあふれているのです。
(2) 眼鏡店を探す
生活圏内にどんな眼鏡店があるかを把握してみましょう。いざ、眼鏡を見に行こうと思ってもなかなか行き先が思い浮かばないもの。チェーン店や格安店、個人店、セレクトショップなど、眼鏡店の種類もいろいろあります。
お店によって品ぞろえも受けられるサービスも違います。まずはそのお店の種類を知ることが大事。「眼鏡姿がすてき! 」だと思う人におすすめの眼鏡店を積極的に聞くのもいいでしょう。いざ眼鏡を探しに行くときには、候補の眼鏡店が多ければ多いほどベターです。
(3) 自分を知る
購入前に今一度、自分を再認識してみましょう。
どんな服を着て、趣味や好きなものは何なのか……。あらためてこう考えると、新たな自分が見えてくるものです。
眼鏡選びで失敗しがちなのが、眼鏡だけ特別な買い方をしてしまうこと。例えば、部屋着にハイヒール姿なんて想像しなくてもNGだとわかりますよね? それと同じでトータルバランスが重要なんです。
自分の持ちものを見たときにシンプルで質のいいものを自然に選んでいたなら、眼鏡もシンプルで質のいいものを。流行ものに敏感な人は流行のものを。眼鏡のことを知らないと、なんとなくみんなと一緒のものが安心するかもしれませんが、そこに自分らしさがないと失敗します。気負いせず、自分らしい基準で選ぶことが大事ですよ。
(4) 整理してみる
どんなときに掛ける眼鏡が欲しいのでしょうか? どんな雰囲気になりたいのか、自分の視力(見え方は)はどうしたいのか、印象を変えたいのか、それともモテたいのか……。今一度、欲しいものを考えてみましょう。
(5) わくわくする
眼鏡は顔のど真ん中です。新しく眼鏡を買うと人生が変わることも。モテるようになったり、おしゃれに目覚めたり、周りから褒められたりといろいろです。新たな自分の顔はどうなるか? 変化を楽しみましょう。
眼鏡選びは確かに難しいかもしれません。でも、「本当に自分に似合う眼鏡」に出会いたいなら、めんどくさくてもこれらの手順をきちんと踏むことが意外に"近道"なんです。眼鏡を買う前にだまされたと思って実践してみてください。きっとあなたの眼鏡選びに変化があらわれてくるはずです!
筆者プロフィール: 藤 裕美(とう ひろみ)
1977年福岡県生まれ。眼鏡スタイリスト。10年間、眼鏡屋で働きながら彫金技術を学び、ネジからすべてメガネを製作、個展もひらく。2001年、24歳のときに店長として、SHOPプロデュース、買い付け、さまざまなイベントを企画。2007年、ドイツへ渡り、眼鏡ブランド『FROST』に勤務。作り手側からも眼鏡の知識を深める。帰国後、2009年から眼鏡スタイリストとして活動を開始。いとうせいこう氏との出会いにより、自身のHPで「眼鏡予報」スタート。2011年10月「めがねを買いに」(WAVE出版)出版。 国内外で著名人のスタイリングや、メディア露出、誌面でのスタイリング、講演会、デザインアドバイス、コンサルタントなど、メガネにまつわることをなんでもしている。また、ファッションだけではなく、目の健康や医療器具としてのメガネ選びの大切さを社会福祉施設や幼稚園などに訪問し伝える活動をしている。眼鏡というキーワードを軸に常に新しいメガネの発信を続けている。