世界最大級の家電関連展示会「IFA 2015」が、9月4日にドイツ・ベルリンで開幕した。その前日イベントとして、Samsung Electronicsはプレスカンファレンスを開催。今回、Samsungはスマートフォンの新製品を投入せず、スマートウォッチの「Gear S2」を発表したが、Samsung Electronics Europeの社長YH Eom氏のスピーチの中心となったのは「IoT」だった。Eom社長は欧州市場に対して話してはいたものの、Samsung全体の方向性として、IoTに注力していく姿勢を示したといってもいいだろう。
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)は、すべてのデジタル機器をインターネットに接続して、相互に連携させて新たなサービスを提供しようというもの。バズワード的な扱いもされるが、近年はいわゆる白物家電でも通信機能を備えた製品が増えてきている。欧州委員会でも、IoT市場が2020年に1兆円規模に拡大するとみており、Samsungは特にこの分野に力を入れていく考えだ。
Eom氏によれば、欧州市場で同社は5億3,000万台の製品を販売し、欧州の家庭の40%に同社のテレビが、60%にはスマートフォンがあり、トップのポジションを確保。Eom氏は、こうした点は「これまでの5年間」の話であり、今後5年間でさらなる成長を続けるための新領域として、IoTを位置づける。
欧州だけで5億3,000万台という販売規模のあるSamsungだが、同社の社長兼CMOであるWP Hong氏は、2020年には同社製品のすべてがIoT対応になる、と強調。IoTには大きな可能性があり、好機であるという認識を示す。
Hong氏は、IoTビジネス成長のために3つの原則に基づいて行動すると話し、オープン性、業界を超えた連携、人間志向のアプローチという3点を挙げる。この3原則に基づき、世界をより良くしていきたい、とHong氏。
IoT向けのオープンソフトウェアプラットフォーム「Samsung Things」、ハードウェア開発プラットフォーム「Samsung ATRIK」を提供することで、さまざまな企業の製品との接続性を確保し、同社製品以外にもIoT製品を拡大。プラットフォーマーとしての位置づけも狙っていく。デジタルヘルスケア製品のベンダーと連携、フォルクスワーゲンやBMWとの協業によるスマートモビリティといったパートナーシップによって、ビジネスを拡大する。
さらに小売市場では、モバイル決済の「Samsung Pay」を活用する。同社が買収したLoopPayの技術を使ったこの決済方法は、おサイフケータイのようにNFCによる非接触決済に加え、磁気ストライプ方式のカードリーダーでも支払える。ほとんどの決済端末で対応できるのが特徴。
このSamsung Payのさらなる拡大を目指したのが、スマートウォッチの「Gear S2」だ。時計ながらSamsung Payをサポートする。NFCでの支払いのみのようだが、バーコードを表示してポイントカード的に使ったり、対応していれば電車にも乗れる、といった利用方法を提示。Apple Watchでも同様だが、バックエンドのプラットフォームは共通しているので、今後はスマートウォッチを使ったモバイル決済も進んでいきそうだ。
Gear S2では、スマートモビリティとの連携で車のキー代わりとして利用したり、車外からエアコンを操作したりといった操作もできるようになる。Gear S2には3G通信対応モデルもあり、直接、車を止めた場所を検索して表示するといったこともできる。
また、スマートフォンの「Galaxy」シリーズと車を連携させる「Car Mode for Galaxy」も紹介した。
「主要なスマートフォンの機能を安全に車内で利用できる」としており、スマートフォンと車載インフォテイメントシステムをMirrorLinkで接続。ナビゲーションや音楽の再生、テキストメッセージの読み上げなどが可能だという。
スマートホームとの連携では、装着者が外出したらスマートキーをロックしたり、Gear S2に話しかけることで外出先から照明やエアコンをコントロールしたり、さまざまな機能を担うことになるようだ。
家電製品として新たに発表されたのが、「睡眠を理解し、より良く生きる」をテーマに掲げた「Samsung SLEEP Sense」だ。これは、直径20cmほどの薄型円形パッドを寝具の下に入れて、寝ている間の心拍、呼吸、動きを検知。睡眠の質を計測して記録できる。検知率は97%とされ、記録されたデータはスマートフォンで確認可能だ。
これによって、睡眠を検知してつけっぱなしのテレビを消す、睡眠の状態からエアコンをコントロールするといった制御も実現され、睡眠環境をより快適にできる、という。
こうして集めたデータから、その人に適したアドバイスも提示され、睡眠の質が向上し、より良い生活につながるとしている。ただし、現時点で発売日などは発表されていなかった。
続いて映像関連。テレビでは画質向上技術を使ったSUHDや、欧州での販売率が50%に達したという曲面テレビを紹介したほか、今後、同社の4KテレビはHDMI 2.0a、HDRに対応することを明らかにした。
4K映像配信へのサポートも強化。コンテンツプロバイダーとして、AmazonやNetflix、独放送局のUHD1といった名前が挙げられており、4Kコンテンツの拡充も期待する。Blu-rayに関しては、HDRなどに対応したUHD Blu-ray対応プレイヤーを販売。欧州では来年(2016年)早々に発売する予定だという。
同社では、4Kの映像配信とBlu-rayという両面でコンテンツサポートを強化する方針。IFAの会場には8K対応テレビも参考展示されており、さらなる高画質化・高解像度化にも積極的に取り組んでいく意向だ。