茨城空港の“位置”について考えてみたい。位置というのは、「東京から中途半端に遠い」という地理的な問題もあれば、およそ100ある日本全国の空港における位置、「首都圏第三の空港」という目線でみる位置もある。さらには自衛隊と共用する「国が管理するローカル空港」という目線も、茨城空港問題に関しては重要になってくるだろう。

茨城空港のターミナル(写真/PIXTA)

いま、この文章を読んでくださっている方々の中で、茨城空港を利用したことがある人ははたしてどれくらいいるだろうか。

国土交通省の資料によると、茨城空港の国内線・国際線合わせた乗降客数は開港1年目(2009年3月開港なので1年目を2009年度1カ月分+2010年度1年分と考えた)が21万人で、5年目の2014年度は54万人。数字上はおおむね右肩上がりでしっかりと伸びている。

空港別乗降客数でも42位(2014年度)と、全国におよそ100ある空港の中では中位のやや上。けっして悪すぎる数字ではない。もちろん開港前に国土交通省が見積もった需要予測は開港初年度81万人、5年後100万人達成と描いていたので甘すぎたことは間違いないが、それは神戸空港などほかの空港でも普通にみられる日本の航空行政の実情でもある。

茨城空港がつくられた理由は、航空自由化を背景とした「首都圏第三空港の必要性」と「空港空白地帯への対応」の2点が柱とされている。前者は海外から日本へやってくる、いわゆる“インバウンド”の増加に対する施策、後者は羽田へ行くにも成田へ行くにも遠い北関東(茨城・栃木・群馬)における初の空港整備が眼目だった。現在、インバウンドを官民合わせて推進していることは事実であるし、一方で茨城空港開港まで北関東が空港空白地帯であったことも間違いのない事実である。

とはいえ、茨城空港がこの2つの大きな役割をきっちり果たせるほどの器になるには、そもそもの現実に大きな問題があった。それはやはり「そうはいっても茨城空港は相対的に不利な場所にある」という地理的な大問題である。

羽田があり、成田がある。インバウンドの流れは東京へやってくることが主流である現状からみると、茨城空港も、東京とのアクセスの利便性はどうしたって考慮されなければならない。同時に、北関東の拠点として考えるならば、茨城県内はもちろん栃木・群馬からのアクセスもきちんと考えるべきなのは当然のことだ。

残念ながら茨城空港は、そのどちらも満たしていない。もちろんアクセスは単に場所の問題ではなく、交通網の整備が大きいのだが、茨城空港は地理的位置も、交通網上の位置も、実に厳しいといわざるをえない。県庁所在地・水戸からのバスは40分。お世辞にも近いとはいいがたい。つくばから約1時間、県北からは1時間半~2時間という地域もザラだ。隣県も、宇都宮が自家用車で1時間、前橋・高崎は2時間前後かかる。

一方、首都圏第三の空港として東京からのアクセスはどうかというと、こちらは東京駅からバスで定刻1時間40分。道が少々混んでいたら2時間はかかってしまう。航空券を持っていれば500円とワンコインになるのはうれしいが、時間的にはかなりの余裕が必要だ。それに加えて今年6月、圏央道の神崎IC~大栄JCTが開通した。これにより常磐自動車道と東関東自動車道が結び付けられ、茨城県内はもとより北関東各地から成田空港へのアクセスが容易になった。成田まで行けば、行く先も、価格的にも選択肢が広がる。

つまり茨城空港は、地理、アクセス面、さらにLCC(格安航空会社)がほとんど就航していないため価格面でも強みのない状態となっている。その不利は、残念ながら開港当初よりさらに増してしまったのが現状なのである。

民間の知恵にかかる茨城空港の今後

空港内に展示されている「F-4 ファントム」。自衛隊共有であることをうかがわせる事象だ(写真/PIXTA)

茨城空港は、航空自衛隊百里基地の一部を“間借り”する形で2010年3月11日(2009年度の年度末)に開港した。正式には百里飛行場といい、防衛省と航空自衛隊が管理者となっている。民間利用の目的でイチから新設された空港ではなく、当然、国の防衛の論理も大きく作用する。

日本には自衛隊と民間が共用する空港が数多く存在している。北海道の新千歳空港や石川の小松空港なども自衛隊との共用空港である。こうした空港は通常、管制業務や空港整備といった航空系事業を国(防衛省・自衛隊)が行っている。民間が担うのは、旅客ターミナルの管理運営といった非航空系事業である。

実は茨城空港、この非航空系事業の部分では開港以来基本的に黒字となっている。「茨城空港=赤字」というイメージが強いが、航空利用と直接関係のないイベントなどを催し、ターミナル運営は、一応、黒字なのである。

ただし、空港全体からみれば非航空系事業が占める割合は小さく、航空系事業の赤字が大きい(茨城空港の2013年度の非航空系事業の経常損益は約1400万円の黒字だが、対して航空系事業は約2億5000万円の赤字)。加えてほかの国管理地方空港でも非航空系事業は黒字が出ているのが一般的だから、たいして威張れるものでもない。逆にみれば、国が受け持つ航空系事業は多くの空港が赤字を出しているので、茨城空港だけが突出して悪いわけでもないのである。だから国は、たぶん、何も気にしていないと思える。

茨城空港がとくに悪くいわれるのは、首都圏第三空港・北関東拠点空港という大きな目標がありながら就航路線が増えず、マスコミなどは叩きやすかった側面が大きいはずだ。現在、定期便は国内線が新千歳・神戸・福岡・那覇の4路線で、国際線が中国の2路線のみ(アシアナ航空のソウル線は運休中)。しかも国内線は今年1月に経営破綻したスカイマークが運航するものだから、今後の再建計画いかんによっては減便・運休も十分考えられる。

2014年度の国内線・国際線合わせた空港別着陸回数の順位(国土交通省発表)をみると、茨城空港は年間2948回で全国55位、日平均着陸回数は9回にとどまっている。1位の羽田や2位の成田と比べるのは酷だが、参考までに羽田は21万6625回(日平均594回)、2位成田は11万4821回(同315回)。やはり路線不足に悩む神戸空港(1万4020回・39回)にも大きく水をあけられている。叩くか叩かないかは別として、茨城空港の路線があまりに少ない現状では、大目標のどちらも達成できないということは指摘しておくべきだろう。 では、茨城空港活性化の糸口はないのか?

「茨城空港をLCCの拠点に」という声は以前から強いが、すぐ近くの成田空港は2015年4月にLCC向けの第3ターミナルをオープン。圏央道の開通もあってさまざまな地域からのアクセスが便利になった。成田がLCC対応を充実させている現状では、明るい見通しは持ちづらい。成田に対して圧倒的に有利なLCC誘致が成功すればいいのだが、日本には海外のように巨大ネットワークを持つLCCがまだ存在しておらず、いざ誕生したとしても茨城を拠点としてもらうには相当な営業努力が求められるだろう。

となれば、茨城空港の周辺住民がいかに空港を活用するかしか解決の道はないのだが……それも県民の9割以上が「利用したことがない」という状況(2013年度県政世論調査)では、急激な旅客需要の創造は無理がある。滑走路強度の問題から貨物用空港となることはできず、プライベートジェット向け空港とするのも調布飛行場のあの事故のあとでは厳しいだろう。「中国人に頼れ」という声も聞こえてくるが、はたして中国人の爆買いツアーなるものがいつまで続くのか、中国経済の状況をみても、不透明といわざるをえない。

このように、茨城空港の現状と将来を冷静に、客観的にみると、まさに八方ふさがりとしかいえない。起死回生の打開策など考えにくいだろう。残念ながら、これが茨城空港の問題である。しかも茨城空港“特有”の問題ではなく、日本の多くの地方空港が抱える大問題なのだということを、日本人は改めて胸に刻むべきだ。

国はどうするか? 国としては、自衛隊共用空港は所詮、防衛のための基地である。防衛には金がかかるものだから、おそらく多少の赤字などなんとも思わないのだろう。繰り返すが、国はたぶん何も気にしてはいない。しかし空港がそこに存在する以上、なんとかうまく運営し、うまく活用するしかないではないか。

欧米の大都市では、3つ以上の空港で機能分担し、中心部から50km以上離れた空港も珍しくはない。2020年の東京五輪を起爆剤に観光促進が功を奏し、今後も日本へのインバウンド増が続くのだとしたら、多くの旅行客の目的地となる東京首都圏に空港が3つあること自体はけっして悪いことではないだろう。むしろ、羽田と成田の発着枠に限界がある現在、うまく機能分担すれば、強みとしてアピールできる可能性も高い。

茨城空港をより有効に、“おもしろく”できるかどうかは、結局のところ民間の知恵と努力にかかっている。民間でどうにかできるところはどうにかして、どうにかできないところは国や自治体、大企業を焚きつける。エアアジアやライアンエアーのような、茨城発の強力なLCCが誕生すれば、日本の首都圏第三空港としての強みはさらに大きくなるだろう。 ほかの地方空港にも増して、茨城空港の位置はきわめて重要だ。茨城空港のこれから3年、5年が、将来の日本の空を占っているといっても過言ではないのである。