パワーストーンが縁!? 田房永子とまんしゅうきつこの意外な共通点

"スピリチュアル"というと、世間一般ではどうしてもうさん臭くていかがわしい、宗教じみたものというイメージがつきまとう。正直なところ、科学的根拠のないものにお金を注ぎ込んでいる人を見ると、「詐欺」「カモられてる」と心のスカウターに表示されてしまうのも本音だ。

田房永子氏(左)とまんしゅうきつこ氏

しかし、スピリチュアルではなくても、"目に見えないもの"を信じている人たちはたくさんいる。パワーストーンの効力を信じる人と、「やっぱりあの人、いかにもB型っぽいよね~」と血液型で性格を判断する人は、一体なにが違うのだろうか。「浮気は男の本能」という根拠のわからない"生物学"を言い張る人は、タロット占いで引っ越しや転職の日取りを決める人を、バカにできるのだろうか。

先日、そんなもやもやについて考えさせられる機会があった。『アル中ワンダーランド』(扶桑社)、『ハルモヤさん』(新潮社)で、人気ブロガーから大ヒット漫画家になったまんしゅうきつこ氏と、『男しか行けない場所に女が行ってきました』(イースト・プレス)、『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)などで、女性の人権や抑圧をテーマに鋭い作品を発表し続ける田房永子氏。

プライベートでも親交のある2人が、お互いのスピリチュアルな趣味について話すトークイベント『きつこと永子の2人会~旦那と宇宙とダウジング~』が、7月31日に青山ブックセンターで開催されたのだ。

今年、『クイックジャパン』(太田出版)の対談企画で初めて出会った2人は、宇宙や精神世界に関心があるという共通点をきっかけに、急速に意気投合。しかし、世間ではスピリチュアルに嫌悪感を抱く人も多いため、これまであまり公にその話ができなかったのだという。

イベントではまず、2人が同時期に偶然同じパワーストーンを買おうとしていたという話からスタート。まんしゅう氏の家で、田房氏がダウジングの棒を取り出したところ、地下室の付近でだけ異常な反応を示したというエピソードや、その帰り道に田房氏のチャクラが開いてしまった(?)体験談などで会場は盛り上がった。

前世の因果はしょうがない、精霊のせいなら仕方ない

トークイベント『きつこと永子の2人会~旦那と宇宙とダウジング~』の様子

この日、イベントがひときわ湧いたのは、2人がそれぞれ医療機関の催眠療法で見たという"前世"の話。それによると、田房氏の前世は大阪城の足軽。孤独を愛し、生涯独身だったが、来世では自分のような男性を癒やすために生まれ変わろう、と決めて死んでいったという。

「よく考えたら、祖父、父、歴代彼氏、夫、友人……わたしの周りにいる男性ってみんな一人が大好きで、全然つるまないタイプなんですよ。今でこそわたし、女性の人権的な視点から怒りのコラムを書いたりしてるのに、使命は男性を癒やすことだったの? と愕然としましたね」(田房氏)

一方、まんしゅう氏の前世は江戸時代、遊郭に身売りされた女郎だったとか。しかも、つらい仕事に疲れ果て、最期は自殺してしまったという。ショックを受けるまんしゅう氏に、医者は「前世で生きられなかったぶん、長生きするのがあなたの使命だ」と諭したそうだ。

その後、強烈なペンネームを付けたきっかけを質問されたまんしゅう氏が、「TwitterのDMで『ヤらせてくれ』としつこく迫ってくる知人の童貞男性を引かせるためだった」と明かすと、田房氏は「ハッ、それ女郎の前世が出てるよ!」と指摘し、会場が笑いに包まれる一幕も。

しかし、この日もっとも興味深かったのは、『アル中ワンダーランド』以来、スランプに陥り何も描けなくなってしまったというまんしゅう氏に、田房氏が下したアドバイスだ。

「NHKの番組で、エリザベス・ギルバートというアメリカの作家が言っていたんですけど、物を書くというのは、精霊に書かされているだけだから、アイディアが出ないからと自分を責める必要はないんですって。そういうときは『おい精霊、いいかげんにしろ!』と怒ってください、と全世界の作家に向けてアドバイスしていて、この人ヤバいな、でもその通りだな、と思いました(笑)」(田房氏)

それを見て以来、田房氏は精霊と一緒に仕事をしているという気分を出すため、『もののけ姫』のコダマのフィギュアを机の周りに並べるようになり、「描けなくなったらどうしよう」という悩みが薄らいだという。

そもそも、田房氏がスピリチュアル的なものにハマるきっかけとなったのも、モラハラだった元彼との間にトラブルが起きたとき、お守りを握って精神を落ち着かせるしかなかったからだとか。

「それまでは、スピリチュアルなんてハア? って感じだったんですけど、そのとき初めて、自分の中のやり場のない不安や怒りを、いったんお守りに預けると楽になる、という方法を覚えたんです」(田房氏)

"見たくないもの"を引き受けるために、"見えない力"を必要とする

話を聞いていて感じたのは、2人のスピリチュアルに対する絶妙な距離感だ。パワーストーンを買ったり、前世療法を受けたり、一見すると2人は"ガチ"で精神世界にのめり込み、影響を受けているように見える。

しかしその一方で、「パワストーン好きな人は、石を"この子"って呼ぶんですよ」(田房氏)、「催眠術師に『催眠にかかったフリをするのも大事だから』とか言われちゃって」(まんしゅう氏)といった発言からもうかがえるように、そういった世界を半ば"ネタ"として楽しんでいるようにも思えるのだ。

田房氏にとって、精霊のフィギュアやお守りは、"自分の内面のおそれや不安"を、"自分の外にある存在"に預けて、肩代わりしてもらうためのツールだったと言える。

前世が孤独な足軽だったという話にしても、普通に考えれば、祖父や父の姿を見て育った田房氏が、無意識に似たような男性を友人や彼氏に選んでいた、と考えるほうが"科学的"で"合理的"だ。

しかし、田房氏にとっては、前世からの因縁や使命という"自分ではどうしようもない見えない力"のせいにしたほうが、かえって自分の内面を整理して、客観的に受け止めることができたのではないだろうか。

田房氏とまんしゅう氏は、そうやって自身の心のバランスを保つために、スピリチュアルとつかず離れずでうまく付き合っているように、わたしの目には見えた。

往々にしてわたしたちは、自分では認めたくない内面を抱えていたり、自分では責任を負いたくない選択をせざるを得なかったりする。自分ではコントロールできない理不尽な状況や、偶然に身をゆだねるしかなかった局面もあるだろう。

そんなとき、「前世が女郎だったから」と思うことを、「パワーストーンがあるから大丈夫」と信じることを、「精霊が降りないから仕方ない」と自分を納得させることを、「てんびん座だからやめとこう」とあきらめることを、「あの人はB型だもんな」と溜飲を下げることを、一体誰がバカにできるだろうか。

神も仏も怨霊も妖怪も、いわば"理解できないもの"を解釈し、"見たくないもの"を引き受けるために、先人たちが作り上げたスピリチュアルだ。それを他人に押しつけたり、信仰を無理強いしたりしない限り、自分がそれで楽に生きられるのなら、わたしたちは"見えない力"のせいにすがっていいのだと思う。人は誰もが、自分が真実だと思う幻想の中でしか生きられないのだから。

トークイベントは、終始笑いの絶えない和やかなムードだったが、わたしは一人そんなことを考えて、心の重荷が少し軽くなったような気がしたのだった。

<著者プロフィール>
福田フクスケ
編集者・フリーライター。『GetNavi』(学研)でテレビ評論の連載を持つかたわら、『週刊SPA!』(扶桑社)の記事ライター、松尾スズキ著『現代、野蛮人入門』(角川SSC新書)の編集など、地に足の着かない活動をあたふたと展開。福田フクスケのnoteにて、ドラマレビューや、恋愛・ジェンダーについてのコラムを更新中です。