開発段階からコミュニケーション手段としてkintoneを導入
システムの刷新にあたり、同社はRFP(提案依頼書)を作成し、5社にプレゼンテーションを依頼。その中でニーズにベストマッチしたのが、サイボウズから開発パートナーとして紹介を受けたM-SOLUTIONSの提案だった。具体的には、Webデータベース型のビジネスアプリケーションをノンプログラミングで自由に設計できるサイボウズのクラウドサービス「kintone」と、Webシステムを組み合わせたハイブリッド型システムだ。
「予算と開発期間の兼ね合いに加えて、kintoneの柔軟性と使いやすさに魅力を感じました。そしてもうひとつ、単純にシステムを構築するだけでなく、開発パートナーとして業務改革に対する提言をしてもらえるのも大きかったですね」と、井上氏は選定理由について語る。
システムの要件定義から基本設計では、画面を見ながらその場で入れ替えができるkintoneの特長を活かし、スムーズな進行を実現。アジャイル型開発により、追加要望にも柔軟に対応することが可能となった。また、実際にシステムを操作するオペレーターの代表者数名が開発段階から参加し、現場の声を取り入れながらより使いやすいシステムを目指したという。
さらに、kintoneを基幹システム本体だけでなく、こうした現場の声を取り入れるためのコミュニケーション手段に並行利用したのも、このプロジェクトにおけるポイントのひとつだ。
菅原氏は「チャイルドケアサービス部のスタッフは全員女性で、まだ小さな子どもや介護が必要な家族がいて時短で働いていたり、週に数回早朝のみ出社したり、また毎日お客さまのご自宅を訪問していたりと、それぞれ時間や場所が異なった働き方をしています。そうした環境下でのコミュニケーション手段として、従来はメールを使っていましたが、どうしても見逃しがあったり、議論の方向性を見失いがちでした。しかし、kintoneを使い始めてからは情報のキャッチアップが大幅に効率化し、基幹システムの開発に関するリクエストはもちろん、会員情報に関する注意点など普段の業務に至るまで、幅広いシチュエーションで円滑なコミュニケーションが可能になったのです」と、kintoneの利便性について語る。
またこうした取り組みは、基幹システム完成時からkintoneを使い始める場合と比べて、操作に慣れるまでの時間短縮という効果も生み出した。さらに同部署では、基幹システムの開発が完了した後も、通常業務のコミュニケーション手段として引き続きkintoneをフル活用しているそうだ。
顧客とオペレーションの双方に大きなメリット
こうして2015年6月に完成した新基幹システムは、同社が要望していた業務改革、顧客の利便性および満足度の向上、そしてペーパーレス&キャッシュレス化のすべてを実現するものとなった。
まず顧客側では、Webブラウザ経由で簡単かつ迅速に入会手続きを行うことが可能に。従来のように、複数枚の書類に手書きで記入するような手間が一切なくなった。これまで電話やメールで行っていた予約に関しても、時間指定からナニーの指名までスマートフォンから手軽にできるようになり、利便性と満足度が飛躍的に向上したのである。
「弊社のサービスは、共働きなど基本的に忙しい親御さまのご利用が多いため、空き時間を見つけて簡単に入力していただくことでストレスを大きく軽減できました。そのため登録のハードルが下がり、今まで関心を持ちつつも登録まで至らなかったけれど、まず登録だけ済ませて緊急時に備えよう、というお客さまが増えています」と語る菅原氏。
法人会員についても、例年と比べて3倍ほどのスピードで登録が進んでいるそうだ。
一方で、ペーパーレス化により会員情報を直接デジタルデータとして扱えるようになったことは、オペレーション側にも大きなメリットをもたらした。
菅原氏は「弊社ではお客さまの大切な個人情報を預かっていますが、従来はご依頼いただいた際にキャビネットから必要な書類を取り出し、担当のナニーへFAXやパスワード付きのメールで送付していました。FAXの場合、送った会員情報がしばらくナニーの自宅にある状態が続き、取り扱いも慎重にならざるを得ません。これまで問題が発生したケースはありませんが、誤送信なども含めて考えると企業にとって個人情報流出のリスクとなります。しかしペーパーレス化によって、こうした作業が一切不要になったのは革新的です。さらに今回、ナニーへの情報伝達手段をWebに一本化し、ご依頼から一定期間のみしか閲覧できない仕組みを導入しました。スマートフォンから見られるため印刷する必要がなく、お客さまへの安心感向上、会員情報を持つナニーの不安解消、社内業務の削減を同時に実現したのです」と語る。
さらに、今まで書類送付に費やしていた時間を顧客対応に充てることで、サービスの充実にもつながったそうだ。
「ナニーサービスは命をお預かりすることに加えて、第三者がプライベートスペースに入るセンシティブな仕事でもあるので、いざという時の相談や入会時の問い合わせは、ゆっくりと時間をかけて電話で話したい、といった要望もあります。そこに時間をかけられるようになったのは、まさに理想形といえます」と菅原氏は続けた。
事業をまたぐシステムとデータの共有化も
現在同社では、kintoneについて1000ユーザー分のライセンスを購入している。これはナニーサービス以外に、今後はナーサリースクールやシルバーサービスでも使用するためだ。
ポピンズ 経営企画部スーパーバイザーの神澤恵未氏は「例えばナニーサービスとナーサリースクールをご利用いただいているお客さまは、会員情報ひとつで両方のサービスをご利用いただけるなど、システムとデータの一部を共有化する予定です。このように、各サービスのアプリ部分を開発するだけで、全体が連携できるのも新システムの魅力といえます。ナーサリーサービスに関しては試験段階に入っており、10月以降に本格導入を開始し、2016年3月中にはすべてに導入する予定です」と語る。
基幹システムの刷新によって、業務改革から顧客の利便性と満足度の向上、ペーパーレス&キャッシュレス化までを同時に実現したポピンズ。その中で導入されたkintoneは、これからも同社の業務を支え続けるだろう。