名古屋特有の郷土料理全般を指す「名古屋めし」。味噌煮込みうどんや味噌カツ、きしめん、手羽先、ひつまぶしなど、日本全国のご当地グルメの中でもとびきり個性的と言われるこの名古屋めしがこのほど"世界デビュー"を果たした。
手羽先、きしめん、天むす、赤だし味噌汁でおもてなし
ひのき舞台となったのは、現在イタリアで開催されている「2015年ミラノ国際博覧会」(ミラノ万博/5月1日~10月31日)。日本館にて8月4日~8日に行われた「あいち・なごやフェアinミラノ」で、「なごやめし」(同イベントでの表記は平仮名)がふるまわれたのだ。
試食用に用意されたのは手羽先、きしめん、天むす、赤だし味噌汁。そのほか、愛知県のご当地メニューとして豊川いなり寿司とCoCo壱番屋のカレーライスも並び、5日間を通して合わせて900食が来場者に提供された。
日本国内でもとりわけ独特と言われる名古屋めしが果たして海外の人の舌に合うのか……。先ごろその名も『名古屋めし』なる書籍を出版した筆者としては、その反応を直接見ておかなければ、とはるかミラノまで飛んだのだった。
きしめんはパスタ風? 手羽先はイタリアにもある??
会場で試食後の参加者に意見を求めると、
「きしめんはパスタみたいで親しみやすい。手羽先も似たような料理はイタリアにもあるし、すごくおいしかった。こっちのレストランで出せば簡単に受け入れられそう」(モネトさん/男性/60代)
「手羽先もきしめんもすごくおいしい。いつか日本でもう一度同じものを食べてみたい」(アマトさん・男性・20代)
「(赤だしの味噌汁は)魚の香りが印象的。おいしいわ」(イレーネさん/女性/40代)
「味噌汁はちょっと塩味が強いね。でも味は悪くないよ」(エヴァーさん/男性/60代)
などと、意外と言っては何だがおおむね好評だった。ちなみに、回答してくれたのは全員イタリア人だった。
また、ミラノ出身・名古屋在住のイベントスタッフであるマルタさん(女性/30代)はというと、「名古屋生まれの彼と結婚して3年。名古屋の料理はどれもおいしい。名東区にある小さなうどん屋さんの味噌煮込みうどんが一番のお気に入りです」とのこと。
日本人からすると"名古屋めし=個性が強い"という先入観がまず先に立つが、「(赤だし味噌汁は)変わっているとか全然思わなかった。抵抗なく飲めたわ」(エレナさん/女性/40代)という声も。海外の人にとっては日本食自体がエキゾチックで一風変わったものなので、名古屋めしの独自性などちょっとした誤差にすぎないのかもしれない。
叶わなかったあんかけスパの夢
ただし今回の万博では、味噌カツ、味噌煮込みうどん、どて、といった名古屋めしの中でもインパクトの強いメニューは、現場での調理体制や食材の供給といった事情から、残念ながらラインナップに加えられなかった。また、手羽先にしても代表格の「風来坊」「世界の山ちゃん」のそれと比べるとピリ辛さは控えめでかなり優しい味つけになっていた。
個人的には、名古屋で独自の進化を遂げたあんかけスパがパスタの本場でどう評価されるかを知りたかった気もするが、これもラインナップからはもれていた。異国での限られた環境下では、本場(名古屋)の本物を味わってもらうには大きなハンディがあり、その中でもできたて料理を多数提供したスタッフには敬意を表するが、フェアでの試食はあくまで名古屋めし入門編といった内容だった。
とは言え、この試みが名古屋めしに興味を持ってもらうきっかけづくりになったことは確か。日本館の常設展示でも「うまみ」こそが日本食の最大の特色であることがアピールされており、うまみの濃さを特徴とする名古屋めしは、独特と言われながらも実は日本食らしさを最も分かりやすく感じられる料理。
万博デビューは、世界の人々に名古屋めしを"ジャパニーズ・ドメスティックフード"としてアピールしていくための最初の一歩といったところだろう。
※記事中の情報は2015年8月取材時のもの
筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)
名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信。Webガイドサイト「オールアバウト」では名古屋ガイドを務める。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『続・名古屋の喫茶店』(リベラル社)は自腹リサーチをコンセプトにしてご当地ロングセラーに。7月31日には名古屋人の生活に根づいた「真の名古屋めし」味処60軒を紹介した『名古屋めし』(リベラル社)を発売した。