前回、ベトナム航空が2014年7月に初めて就航した成田~ダナン直行便について紹介した。同便は利用者を着実に増やしており、当初は週4便でのスタートだったが、2015年3月からは週5便に増便している。さらに7月1日から9月30日までは夏季の需要増を見込み期間限定でデイリー運航に切り替えた。そんなダナン直行便でどんなベトナム中部旅行ができるのか、ホイアン、フエ、ドンホイの街や見どころを紹介しよう。
成田を15時25分に出発したVN319便は、定刻の18時55分にダナンに降り立った。到着して最初に訪ねたのが、世界遺産の街・ホイアンである。
商売も上手な心優しきホイアンの人々
歩くペースが、知らず知らずのうちにゆっくりになってる。トゥボン川沿いのバクダン通りを歩いていて、そんなふうに感じた。気温35度という暑さのせいもあるけれど、それだけではない。ここホイアンはほんわか、おっとりしていて、時間がそっと流れている。
出会う人たちも、みんな感じがいい。果物売りのおばさんが自分から「写真撮っていいよ」とポーズをとるので、何枚かシャッターを押したら、にこっと笑って「そのかわり果物買ってね」とバナナやマンゴーを袋に詰めはじめた。とても商売上手である。
炎天下で汗を拭く私に、「これをかぶれ」と土産屋の若い女性が名物の三角麦わら帽を差し出し、横からシクロ(自転車タクシー)の運転手が「歩くのは大変だから、乗れ」と私の手を引く。物売りが寄ってくると一瞬身構えるものの、立ち止まって話してみるとみんな心配になるほど人がいい。
ホイアンはヨーロッパ、インド、イスラムとアジアを結ぶ海上交易の中継地として栄えた港町だ。その中心が、世界遺産に指定された旧市街にある「来遠橋(らいおんばし)」だ。「日本橋」の異名をもつ橋を境に、西側に中国人町が、反対側には日本人町が広がる。
古くはこの界隈だけで600人ほどの日本人が住んでいた。今は観光客以外に日本人はいなくなったが、それでも歩いていてどこか懐かしい気持ちになるのは、目に見えない当時の"空気"が残っているからだろう。
CAオススメのフエで歴史と文化に触れる
ホイアンに続いて、ベトナム中部のもうひとつの世界遺産の街・フエを訪ねた。まずは王宮へ。高さ5mの壁が城の周囲を10kmにわたって取り囲んでいる。ベトナム戦争で一度は破壊されてしまったものの、現在は修復されて当時の姿を取り戻した。
入口(王宮門)を抜けると、その先にある赤い屋根の平屋の建物が皇帝が謁見(えっけん)を行ったという「太和殿」。どこかで見たことがあると思ったら、北京の紫禁城(しきんじょう)と同じ造りなのだそうだ。グエン王朝は中国文化を積極的に取り入れた。中国では皇帝の象徴とされる龍の装飾も、王宮内のあちこちで見ることができる。
王宮だけではない。フエの街には寺院、皇帝廟など歴史ある建築物が点在している。成田からダナンへ向かう機内で日本人クルーが「ベトナムの文化を味わう旅ならフエがオススメです」と言っていたのを思い出した。
1601年に建てられた7層8角形の塔が美しいティエンムー寺、他の廟と比べても最も威厳がある造りのミンマン帝廟など、全てを訪ねようと思うととても1日や2日では回り切れない。ベトナム中部の街は観光資源が豊富だ。
秘境フォンニャケバンには「天国の洞窟」も
その後は、陸路でドンホイへ移動。ここを拠点に訪ねたのが、ベトナムの秘境「フォンニャケバン国立公園」である。
ラオスとの国境にほど近いベトナム中部のフォンニャ・ケバン国立公園はアジアで最も古いカルスト地形で知られ、こちらも2003年にユネスコ世界自然遺産にも登録された。カルスト地形とは、水に削られやすい石灰岩などが雨水や地下水に溶かされてできる特殊な地形の総称で、鍾乳洞がその代表格である。
フォンニャケバン国立公園の面積は857.5平方キロメートルあり、広さは新潟県の佐渡島とほぼ同じ。そのほとんどが原生林に覆われ、多様な動植物が生息している。大小さまざまな洞窟が300もあるが、一般公開されているのは「フォンニャ洞窟」と「ティエンソン洞窟」の2つだ。
世界遺産登録エリアからは外れているが、フォンニャ洞窟からクルマで30分ほど行った「天国の洞窟」にも足を伸ばした。洞窟としての迫力はフォンニャやティエンソンよりも上と聞いていたが、なるほど、そのスケールの大きさは言葉を失うほどだった。
国内移動はレアなプロペラ機で
ほぼ1週間の日程での旅だった。ダナンからホイアンとフエを経由し、かつて南北間の軍事境界線が置かれた「17度線」を超えて、旧北ベトナムのドンホイへ。帰国フライトはハノイからの便を予約してあったの、最終日はドンホイからハノイへベトナム航空の国内線で移動する。ATR72という、日本ではなかなか乗れないレアなターボプロップ機で、眼下に海岸線を眺めながらのんびり空の旅を楽しんだ。
またベトナム航空は7月、計10機をオーダーしているエアバスの最新鋭機A350XWBの初号機を受領した。同機種を運航するのは中東のカタール航空に次いで2社目、アジアでは初めてである。今秋よりハノイからフランス・パリなどの欧州線に投入する予定だ。「その後の就航路線はまだ未定」と同社は言うが、受領機数の拡大にともない、日本路線への導入も間違いなく視野に入ってくるはずだ。
A350XWBの「XWB」とは「エクストラ・ワイド・ボディ」の略。2014年秋にテスト機が羽田に初飛来した際に、私もひと足早くそのデモフライトに搭乗した。最新テクノロジーが細部に駆使され、静かで快適なフライトを提供してくれる機種だと実感したのを覚えている。ボディ幅が拡大されたゆったりキャビンで日本からベトナムへ移動できる日が、今から待ち遠しい。
取材協力: ベトナム航空
※記事中の情報は2015年5月取材時のもの
筆者プロフィール: 秋本俊二
作家・航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)や『ボーイング787まるごと解説』『これだけは知りたい旅客機の疑問100』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)など著書多数。