2つ目は7月22日(米国時間では7月21日)に発表された「32bit ADC」である。一般にMCU内蔵型のADCは10~12bit前後が主流で、多くても16bit程度になっており、これを超える用途はDiscreteでまかなう事になるが、こちらも主流は24bit前後である。ここで問題になるのはENOB(Effective Number Of Bits)で、これはRMSノイズが0にならない限りどうしてもENOBは本来のbit数よりも下回る。そこで、より高い精度を持ったADCが必要とされる。こうした用途に向けて同社がリリースしたのが「ADS1262/1263」(Photo06)で、32bitの分解能に加えて自己診断機能なども搭載する。氏によれば高精度な秤量とか橋脚などに設置される歪率計など、本当に高い精度が必要な用途に用いられるとか。

Photo05:RMSノイズを下げるための1つの方法がΔΣ方式の採用だが、それでも0にはならない

Photo06:診断機能の中には、逆に信号を外部に出力して電圧比較を行うものも含まれており、この目的のためにDACまで内蔵しているとか。ちなみに変換後のデジタル出力はSPIとなっている

また同社はWeb経由でのツールにも力を入れている。Data Converter Learning Centerはオンラインで各コンポーネントの使い方を学習できるし、オンライン設計ツールであるWEBENCHもやはり7月22日に電源回路デザインツールが追加になった事が発表された(Photo08)。

Photo07:この画面だと英語に見えるが(というか、もちろんメインは英語)、ちゃんとコチラにアクセスするとタイトルは日本語で表示される

Photo08:WEBENCHそのものは以前から提供されており、さまざまな回路のデザインと動作シミュレーション、更には回路図の生成までがオンラインで出来る。ある意味このあたりが、TIによる設計者囲い込みのための肝と言っても良いかもしれない

さて、最後が7月29日(米国時間で7月28日)発表となった、新しいUSB Type-C向けソリューションである。USB Type-CについてはCOMPUTEXのレポートでも軽く触れたので繰り返さないが、Reversibleなコネクタが1つのBreakthroughなのは間違いない(Photo09)。

Photo09:この話はCOMPUTEXのレポートでも書いたので省略させていただく

これもあって各社共に色々な製品を投入しつつあるが、TIもまたここに一定の商機を見出したようで、今回3つの製品を発表した。それぞれ

  • TPS65982:USB Type-C/USB PD Controller
  • HD3SS460:USB Type-C CrossPoint Switch
  • TUSB320 Family:USB Type-C Configuration Channel/Port Control

となっている。発表会の時点では詳細な説明は無かったが(Photo10)、まずTPS65982は単にUSB Host/Device+USB PDのコントロールだけではなく、内部に60W(20V@3A)の電源供給回路まで含んだ初の統合製品となる。ちなみに100W(20V@5A)は外部にNFETドライバを用意すれば可能な模様。現時点ではUSB PDのコントローラは複数存在するが、いずれも別にUSB Type-Cのコントローラが必要とされていた。HD3SS460は4chのCrosspoint Switchで、USB 3.1に準拠、スタンバイ時の消費電力を40μWと削減したのが特徴とされる。TUSB320 FamilyはUSB 2.0対応のTUSB320とUSB 3.1対応のTUSB321からなり、最大15Wの電力供給が可能となっている。

Photo10:製品概要は同社のWebサイトにて公開されている

ちなみにこれに続く製品はまだ検討中のこと。また、E-Markerチップ、あるいはActive Cable用Bufferなどについては、現時点ではそうした製品の具体的な計画は無いそうだ。さらに言えば、Thunderbolt 3については「マーケットを注視している」言うのに留めているのは、TIのThunderbolt向け製品群が、当初予想したほどには売れなかった(というか、マーケットがTIが予想したほどに広がらなかった)事とは無縁ではないだろう。

ところで、なんでこの時期にこんな発表会が、という根本的な疑問に対する説明は無かったのだが、察するにもう少し日本マーケットへのてこ入れが必要、と判断されたのかもしれない。再び2014年のAnnual Reportに戻るが、地域別の売り上げを見ると

2014年 2013年 2012年
米国 16億2500万ドル 16億6600万ドル 15億9600万ドル
アジア 79億1500万ドル 73億7000万ドル 78億800万ドル
欧州 22億9300万ドル 19億2600万ドル 18億6100万ドル
日本 10億3200万ドル 10億7200万ドル 13億5700万ドル
その他 1億8000万ドル 1億7100万ドル 2億300万ドル

となっており、比率で言えば全体の売り上げの約8%を占めている。これは外資系半導体会社としては比較的よくありがちな比率であるが、2012年からの推移で言えば他の地域が概ね2012年の水準を超えている(その他地域はこの際置いておく)のに対し日本はむしろ毎年売り上げが下がっているからだ。2012年には全社に占める割合が10.5%とやや高めだったのがどんどん低下している訳で、このあたりで歯止めを掛けないといけない、と判断されたのかもしれない。そうした歯止めの一環として、同社が強いアナログ部門を中心に製品紹介、というのは非常にありそうな話に思われる。

もちろん発表会をやるだけで売り上げが伸びるわけもないのだが、開発者に新製品を知ってもらう事は売り上げを伸ばすために重要な要素であり、その機会の1つになれば、という事なのだろう。