そのカテゴリーは、旅番組? ドキュメンタリー番組? いや、これはバラエティ番組だ。しかし、各局こぞって世界をテーマにしたバラエティ番組を作る中、『クレイジージャーニー』(TBS系毎週木曜23:53~)は決してそれらのジャンルに属さない。
番組ホームページに書かれているコンセプトは、「独自の視点やこだわりを持って世界&日本を巡る“クレイジージャーニー”たちがその特異な体験を語る、伝聞型紀行バラエティ」。こう書くと何だか難しそうなのだが、要は「クレイジーさを楽しめばいい」というだけ。コンプライアンスやクレーマーの増加で、テレビ界全体が自主規制を施す中、これほど視聴者を「思っていたよりスゴかった」と驚かせ、「放送して大丈夫?」と心配させる番組は珍しい。
その希少さで早くもコアなファンをつかんでいるほか、5月発売の『週刊ザ テレビジョン』全新番組採点企画で私を含むテレビ識者5人中4人が満点をつけるなど、各方面でぶっちぎりの評価を得ている。つまり、もしあなたが未視聴なら、一度は見てほしい番組なのだ。
以下に『クレイジージャーニー』のどこがヤバイのか、いくつかの側面から考えていく。
「第2弾は無理」と言われた正月特番
今年の正月、深夜にシレッと放送されたため、それほど話題にならなかったが、見た人の衝撃はすさまじいものがあった。例えば、最初の旅が東洋一のスラム街・フィリピンのトンド地区で、臓器売買や銃密造村を潜入取材。村人が麻薬を打つシーンなどもしっかり映され、この時点で「放送コードを超えているのではないか」と思ってしまった。そもそもスラムでカメラを持っているだけで、いつ襲われてもおかしくない。
その後も、「ガスマスクがなければ命が危ない」インドネシアの青光りする山への旅、サバイバル生活でさまざまな動物の部位や昆虫を食べる男などのムチャクチャな映像が続いたため、誰もが「ここまでやってしまったら第2弾は無理だろう」と思っていたが、4月からまさかのレギュラー放送化が決定。すぐさま「正月特番のテンションをキープするのは無理では?」という危惧の声があがったが、番組は全くパワーダウンしていない。
「ルーマニアの闇」と言われるマンホールタウンや、「アジア最大のスラム」インド・ダラヴィへの潜入。さらに、極悪刑務所、世界四大廃墟、洞窟、深海など、ヴィレッジバンガードの旅コーナーでしか見られないようなエリアをピックアップし、クレイジーたちの世界観を映像に落とし込んでいる。
番組の主役は、そのクレイジーたち。「危険地帯ジャーナリスト」「奇界遺産フォトグラファー」「1000の洞窟を探検した男」「深海に潜り続ける生物学者」「マサイ族の日本人嫁」など、その肩書だけで「どれだけヤバイ人なのか」わかってしまうのではないか。その意味でこの番組は、彼らの生きざまを見るドキュメンタリーとも言えそうだ。
番組の超エース・丸山ゴンザレス
中でも、危険地帯ジャーナリスト・丸山ゴンザレスの異物感は群を抜く。名前と坊主頭から芸人と間違えてしまいそうだが、この人は本当にヤバイ。フィリピンのスラム街やルーマニアのマンホールタウンで、案内役を買収して危険地帯を突破する姿は、ほとんど「テレビに出してはいけない人」だ。
そして、7月16日・23日の2週に渡る「ジャマイカでのマリファナ取材」もこれまで以上にヤバイシーンを連発した。道でマリファナを吸っている人と次々に遭遇した上に、軽いノリで売り込まれてしまう丸山ゴンザレス。さらに裏路地へ連れて行かれ、怪しい食べ物や飲み物を渡されてもちゅうちょせず、たいらげる肝の強さに驚かされる。
さらに丸山ゴンザレスは、覆面をした男に「人を銃で撃ったときの再現をしてほしい」と頼み込んでしまう。強引につかまれ、首の後ろに銃を押しつけて空砲を撃たれたシーンにゾッとさせられたが、丸山ゴンザレスは「これは怖いッスね」と半笑い。しかし、相手はマリファナ常習者であり、本当に撃たれたとしてもおかしくなかった。ただの恐れ知らずなのか、それとも緻密な計算の上なのか……全くわからない。
その後、マリファナ使用が常態化したレゲエパーティーや、広大なマリファナ畑にも潜入してしまうのだから、まさに「行けるところは全て行く」というスタンス。ギリギリの状況まで決して引かない姿勢は、どんなことから生まれているのだろうか。
あの松本人志が小さく見えるヤバさ
MCの松本人志が「これを旅と言っていいのか?」と首をひねるように、「一般人の旅行には全く参考にならない」旅バラエティ番組としては斬新。内容がぶっ飛んでいるためか、演出は極めてシンプルで、淡々と映像を流し続け、松本、設楽統、小池栄子はときどきリアクションや軽い笑いを取っているだけだ。
演出がシンプルな分、ジャーニーたちのヤバさや、映像の怖さがストレートに伝わるため、あの松本ですら存在感が小さく見えてしまう。ゲスト出演したジャーニーの対応をこなしているものの、ふだんのスキルを発揮できているとは言い難い。松本らにとって、「相手が悪かった」としか言いようがないのだろう。
熱心なファンを集めている理由は、「大使館や在留外国人からいつ抗議されてもおかしくない」過激さよりも、「他番組やネットでは絶対に見られない」独自の映像。それに対する視聴者の期待感が、「ネットに奪われた視聴者を取り戻したい」テレビ業界のヒントになりそうな気もする。また、ジャーニーを見守る「ハラハラドキドキ」も大きいのではないか。もはやバラエティ番組というより、主人公が凶悪な犯人に追い詰められるサスペンスドラマに近いのかもしれない。
ただ、あくまで制作サイドとしては、「クレイジーでヤバイけど、その国では当たり前のことだから放送できる」というスタンス。今のところ大きなトラブルもないだけに、「このまま続けていこう」というところだろう。
とはいえ、命がけの場所も多いため、いつ何が起きてもおかしくない状況であることも事実。好きで旅するジャーニーたちはいいとして、同行ディレクターの無事を祈りつつ、「このテンションのまま、ずっと番組が続きますように」と応援していきたい。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。