米国では2000年のIT株バブル崩壊後、企業の会計スキャンダルが続出

東芝の不適切会計のニュースをみて、13年前の米国を想い出した。米国では2000年のIT株バブル崩壊後、企業の会計スキャンダルが続出した。エンロン、グローバルクロッシング、クエスト、ワールドコム…。高度なデリバティブを駆使した簿外取引から、売上高の水増しといった古典的なものまで様々だったが、利益を少しでも大きくみせかけることで、企業経営者が株価を押し上げようと汲々とした結果だった。株価が上がるならば、少々のごまかしや違法行為にも目をつぶるというわけだ。当時、そうした会計操作は、なかば皮肉を込めて「innovative accounting(革新的会計)」と呼ばれた。

会計スキャンダル噴出後の米当局の対応は迅速だった。ワールドコムの粉飾が発覚して24時間経たないうちに、当時のブッシュ大統領は「正しく責任を果たさない人々を、法の範囲内で追及する」と宣言した。そして、わずか1か月後の2002年7月に「企業会計改革法」、通称サーベンス・オクスリー法(SOX法)が成立した。

同法には、社外からの会計監視の強化、経営者による決算書の保証、簿外取引の情報開示、等々が織り込まれた。違反した場合には、厳しい罰則が適用された。決算書の不正が意図的と判断される最も厳しいケースでは、経営者に対して500万ドル以下の罰金、20年以下の禁固刑が科された。

SOX法で企業会計の信頼性、透明性が相当に高まる

SOX法は、審議された当時のヒステリックな世論に流されて、やや厳格に過ぎる内容になった。とりわけ、企業経営者は、決算書の見直しに忙殺され、また株主訴訟を恐れて前向きな事業計画が立てられなくなった。企業活動に大きくブレーキがかかったのだ。起業家精神に打撃を与えたとの指摘もあった。しかし一方で、これが米国のダイナミズムであり、自浄作用が働くことを示したとの評価もあった。不正あるいは不適切な会計処理がなくなったわけではないだろうが、企業会計の信頼性、透明性が相当に高まったことは間違いない。

日本では、2006年に制定された「金融商品取引法」に、SOX法を手本にした内部統制に関する条項が盛り込まれ、日本版SOX、いわゆるJ-SOXと呼ばれる。昨年、業績不振の最高経営責任者(CEO)に圧力をかけるべく「責任ある機関投資家の諸原則(日本版スチュワードシップ・コード)」が公表され、また、6月には「コーポレートガバナンス・コード」が施行された。一事例だけで結論は出せないだろうが、そうした日本の諸制度が、「行き過ぎた」米国の制度と対照的に形だけの「手ぬるい」ものなのか、改めて検証される必要がありそうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。2015年7月31日にWEBセミナー「マーケットリサーチ・レーダー:8月の投資戦略の探求」を開催する。詳細はこちら