アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」に登場する拳銃「DOMINATOR(ドミネーター)」を、家電ベンチャー・Cerevoが再現した電動玩具「DOMINATOR MAXI(ドミネーター・マキシ)」(※開発コードネーム)。作中同様、なめらかな動きで自動変形する様子が公開されたと同時に、アニメの中の動きを"完全再現"したと話題になっている。
インタビュー前編では、ネット接続家電を手がける同社が「ドミネーター」を開発したきっかけを語っていただいたが、後編では、自身もアニメを愛好しているという同社の岩佐代表が、今回の製品をはじめとした「スマートトイ」、ひいてはアニメ業界のグッズ展開にかける思いについて迫った。
――動くものは今回御社が発表したものが初めてですが、ドミネーターはすでにさまざまなメーカーが製品化しています。価格帯でいえば御社のものが最も高額ですが、差別化に際して工夫されたことはほかにありますか?
工夫、という部分ではないかもしれないのですが、価格ではなくクオリティを追求したことが、何よりの差別化だと思っています。
僕自身、すごくアニメが好きなんです。そうした趣味がある場合、決してお金持ちではないにしても、いわゆる社会人をやっていてある程度の収入があるとなったら、本当に好きな作品のためであれば、5万円でも10万円でも出そうと思ったら出せる、という気持ちを持ったファンの方は多くいらっしゃるのではないかと思っています。
例えば、15万円前後のBlu-ray BOXが販売されているアニメ作品はいろいろとありますし、アイドルものアニメの等身大ポップがひとつ2万5,000円で、それをメンバー6人分そろえたら合計10万円、みたいな商品展開もあるわけです。要は、欲しい人はお金を出しても良いものが欲しいというニーズがあるのだと感じています。
ですが、アニメ関連事業に限らず、メーカー側がそういう事業構造になっていないのでしょうけれど、いわゆるアニメ作品の関連グッズって、何と言ったらいいのでしょうか…。
――おっしゃるような高額商品は少数派で、ストラップやタオル、缶バッジなど、作品種別を問わず同じような低額商品が展開されがちですね。ライン化しているというか。
そうです、ライン化しているのと、参入している企業が基本的に限られているためでしょうね。もちろん、そうした状況を否定するものではないですし、僕もキーホルダーとか好きで集めていたりするので、それはそれでいいんです。その一方で、家電業界の費用感と技術で、もっとすごいものができるんだということも知られてほしいと思っていました。
近年、ハードウェアスタートアップが増えているのは、少ない開発費と小規模なロットで、高機能な製品を生産できるような土壌が整いつつあるからです。
今回のドミネーターも、モーターが中国の部品メーカーから簡単に購入できるようになったこと、500台~1000台から組み立てを受けてくれるEMSと言われる工場が出てきたこと、製品化に際してCPUを入れるのですが、社内で開発しなくても、デジカメやスマートフォンに入っている物と同じ高性能なチップを、メーカーから買って組み込めるというような状況があって実現しました。その上、各ソフトウェアもある程度オープンソースで配布されています。例えば顔認識だったら、シビュラシステムの開発のご質問の時にも挙げたOpenCVなどのライブラリが有名です。
要するに、家電業界では「いつでも来い!」と言えるような状況が整っているものの、コンテンツ業界、そして玩具やプライズなどの周辺産業がなかなか追いついてこなかったんですね。そんな中で、このドミネーターが「こんなこともできるんだよ」という、フラッグシップ的な製品というか、ひとつの実証にはなるのかな、と。
――既存の展開にはないモノを実現したかった、ということですね。
繰り返しになるのですが、既存の製品展開が悪いという話ではないんです。僕らは逆に、そうしたメーカーが得意とする、大量生産して原価を1円、あるいは1銭単位で下げて、利益を回収していくみたいなやり方は苦手なんです。自分の好きなアニメのグッズが、500円のものから10万円のものまであるって面白いじゃないですか。
こうした製品展開の例としては、一時期話題になったマスターレプリカ社が製造した『STAR WARS』の「FXライトセーバー」があります(注:現在はハズブロ社が販売)。ライトセーバーのおもちゃって、トイザらスで2,000円くらいで売ってますけども、マスターレプリカ社の物の価格は約2万円でした。完全に「大人のためのライトセーバー」ですね。本来、ライトセーバーは1m以上ある竹刀みたいなものですが、子供用のものは輸送費を低減するために、刀身の部分は組み立て式になっていたり、伸縮式になっていたりするんです。
一方、大人用のそれは箱がやたら大きいことで有名で、つまり輸送コスト低減をとらずに、刀身をきれいに再現することを優先したんです。しかもLEDがたくさん入っていて刀身が満遍なく光り、衝撃センサーと加速度センサーが入っていて、つばぜり合いや回転という動作でそれにあった音が鳴る。アメリカの"いい大人"がこれを2本くらい買って、家に飾って自慢げにしているのをよく見ていたのですが、STAR WARSが本当に好きな方にとって、1本2万円というのは、そんなに驚くような値段じゃないという感触がありました。この製品の発想のルーツのひとつといえると思います。
翻って、日本のアニメゲームの作品を見ても、大人用のライトセーバーにあたるものってほぼないなと思ったんです。ガンダムには一部近いターゲットの商品ラインナップがありますが、買っている人たちも楽しそうだし、作っている側も楽しいだろうなって思うんです。どっちも幸せそうにやっている感じがして、そういうものを会社として組織的に作って、事業としてちゃんと成功することはできるんじゃないかっていうのが発想の原点ですね。