――ここに行き着くまで、どれぐらい試作されましたか?
およそ4世代くらいでしょうか。間にバージョン3.5みたいなものもあったりするんですけど。
――作中のなめらかな変形動作がこれだけ忠実に再現されている、ということが話題の核だと思うのですが、ここはうまくいった、と思う部分は?
ものづくりって、1カ所ここだ!っていうのはあまり無いんですけれども、まあ、よく入ったな、と(笑) ほぼ1/1のサイズの筐体の中に全てのパーツを入れられた、というところでしょうか。
製作委員会からご提供いただいた資料を見て、これだったら行けるだろうという判断をしたものの、やはり現場の皆さんの頑張りがなければ実現できませんでした。この筐体の中に複雑なメカ機構っていうのを入れるというのは大変なことで、そこはしてやったり、というか。
中を見ていただくと分かるのですが、かなりメカメカしくて細かいモーターやギアが詰め込まれているんです。上の部分なんかも機構が複雑に作られていて、下からこうのぞき込むように見ていただくと面白いかもしれません。こっちにもギア、あっちにもギアという構造で。
――外側だけを見ているとモデルガンのような仕上がりですが、中を見ると機械らしさが感じられますね。
ギアがあって、バネがあって、モーターがあって。そして、光らせるためにLEDも必要です。LED自体はすごく小さいものなんですが、満遍なく光を伝えようと思うと、光を導く板が必要なので、そういったものを全部入れて行くのはかなり厳しい戦いでした。あと、何と言っても、部品が入っても変形できなければ意味が無いので。
このプロジェクトは、現状はメカが先行していて、変形機構を頑張って作った段階です。ここからはソフトウェアが頑張って、最終的な製品としてできあがるというような流れですね。
――少しソフト側のお話も伺いたいのですが、作中の核となる設定「シビュラシステム」はどういった技術で実現されるご予定ですか? 犯罪係数を計測する、というのは現実的に基準を決めるのが難しそうですが。
開発中の専用アプリ画面。スマートフォン連携機能として、専用アプリ上に"犯罪指数"を表示させたり、本体のユーザーインターフェイスをオーバーレイした写真撮影機能、犯罪指数に応じた自動モード変形などを搭載予定。スマートフォンから本体設定を変更することもできる |
※注:シビュラシステム=「サイコパス」劇中に登場する、人間の心理状態や性格を数値化するシステム。その中で犯罪に関する数値は「犯罪係数」と呼ばれ、一定値を超えると罪を犯していなくても「潜在犯」とみなされる。「ドミネーター」はこのシステムに接続されており、計測数値に合わせた形態に自動的に変形し、対象を裁く。
その点は今詳細を詰めているところです。ベースとなる部分はOpenCVなどの画像処理ライブラリを使って、カメラから撮影した画像をもとに、何らかの値を計算するというアルゴリズムを組み込む予定です。
――ランダムではなく、実際に何らかの"係数"を算出するんですね。
単純なランダムではやはり面白くないですし、「スマート感」が出ないので、そこはきちんとインテリジェンスなアルゴリズムを使って、"らしい値"を出そうと思っています。といっても、測定対象になった方が本当に危なそうかどうか、というのを測るわけでは当然ないですが。
ひとつの例として、僕がパナソニックにいたころに関わった「眉毛診断」というものがあります。眉毛の形を写真から読み取って性格診断をするのですが、そういった顔のパーツなどを基準にするのもひとつの手だとは思っています。
――すでに完成されているメカの部分で、ここでつまずいたというようなエピソードがあれば教えてください。
どこもかしこもつまずいてるので、何とも言えないのですが、モーターとギアでしょうか。開発中はギアが割れたり、モーターの力が足りなくて開ききらなかったりしました。電池駆動にするためにはフルパワーのモーターを積めない上、LEDも同時に光らせなくてはならないなど、制約も多かったです。
それに、電動変形、しかもそれが元の形状に戻るというのは、いわばパズルみたいなもので、ピースを1個間違うと完成しないんですね。そのために、こっちを立てるとあっちが立たない、みたいな状況がかなりありました。
ギアでものが動くという機構は、家電のノウハウというより、玩具のノウハウに近い所があります。弊社の中にさまざまなバックグラウンドを持つエンジニアがいて、彼らの持っているスキルをうまく持ち寄ることで何とかできあがったんです。
後編では、岩佐代表が「スマートトイ」に取り組む熱意と、記者会見で自らコスプレした理由など、さまざまなバックグラウンドが語られる。