夏休みの自由研究で、作りたかったが実現できなかったものがある。それは「電子工作」。モーターによる駆動部があり、スイッチを押すと麦球が光る程度のものだが、いかんせん小遣いが足りなかった。しかしいまは……大人なりに多少の余裕がある。そうだ、いまなら往時を超えるなにかを作れるはずなのだ。

きっかけは一本の電話

マイナビニュース編集部から電話がかかってきた。妙だな、急ぎの原稿は昨日送ったはずだけど……電話口は予想どおり担当編集I氏、「いやあ、暑いですね! 夏ですね!」などとのたまっている。いいから早く要件を言ってくれ、キーンと冷えたビールを飲むところなのだから。

I氏:「夏といえば!」
海上:「はあ?」
I氏:「自由研究でしょう!」
海上:「ああ、小学生の夏休みの宿題ね」
I氏:「なにか作ってみませんか?」
海上:「貯金箱とかモーターで動く意味不明物体とか? なんでオッサンの俺が?」
I氏:「いやだなあ、とぼけちゃって。アレを使うんですよ、アレを」
海上:「アレって?」
I氏:「いまが旬のラズパイですよ、ラ・ズ・パ・イ。得意でしょ?」

Raspberry Piか。確かに、ここ半年ほど、時間を見つけてはラズパイをイジり倒している。特に、ラズパイをオーディオに活用しようと勝手に命名したプロジェクト「ラズパイ・オーディオ」は、勢い余って電子書籍を出してしまうなど仕事にも影響しはじめた(Amazon Kindleストアで好評発売中!)。だからといって、なぜ夏休みの自由研究なんだ?

I氏:「この前、熱く語ってたじゃないですか。いろいろできるって」
海上:「そりゃ、まあ。カメラとか計測器とか、周辺機器もいろいろあるし」
I氏:「小さくて低消費電力でそこそこパワーがあって、なにより安いですしね」
海上:「初期費用はトータルで1万円もあればじゅうぶんかな」
I氏:「ほら。自由研究にピッタリじゃないですか。大人の夏休みの自由研究!」
海上:「俺に夏休みはないっての」

Raspberry Piはシングルボードコンピュータ。小さな箱に基盤だけが収められている

いろいろむき出しだが、DIY感覚で楽しめることが強み。確かに、自由研究向きの素材ではある

『スズメ激写装置』を作りたい!

という経緯で引き受けてしまった、「ラズパイで大人の夏休みの自由研究」なる珍妙な企画。ラズパイを使うことだけは決まっているものの、最終的になにを作ればいいというのか。オーディオ企画は他誌で進めているから無理で、監視カメラはヒネリがないしそもそも欲しくない。タッチパネルを付けたところで、スマートフォンやタブレットには見た目も操作性も適わないだろう。

そこへスズメが1羽飛んできた。ソファーから見えるベランダの床に、ときどき遊びにやってくるかわいいヤツだ。しかしスズメは野性が強く人に慣れない。近くでカメラを構えようものなら、気配を察知して飛び去ってしまうほどだ。

まてよ。これだ。目立たない場所にカメラを設置しておき、動体に反応して撮影を開始するようにすればいいのだ。幸い、Linuxには「Motion」というオープンソースのWEBカメラシステムがあり、都合のいいことに動体検知機能を備えている。我が家のベランダに飛んでくる小動物はスズメくらいなものだし、スズメが活動するのは昼間だから光量の心配もいらない。飛んできたスズメに反応して自動的にパシャリ、これですよ。

Raspberry Pi向けには、GPIOという40ピンの拡張スロットに接続するタイプのカメラもあるのだが、リボンケーブルなので取り回しが悪くなるし、基盤もレンズ部もむき出しだから後々面倒なことになりそう。USBカメラのほうが安くて取り回しもかんたん、大人だからここは楽をさせてもらいたい。スズメにも反応するんじゃないかな? たぶん。試してないけど。心は少年だから先々のことは気にしない。

海上:「てなわけで、『スズメ激写装置』を作りますよ!」
I氏:「……もう少し、なんかこう、あるでしょ? グッとくる絵面というものが」
海上:「スズメのかわいさたるや(以下略)」
I氏:「ああ、もう、わかりましたよ。スズメでいきましょう、スズメで」

この子もかわいいけど、こないだウチのベランダに飛んできた子なんて、巣離れしたばかりみたいで丸くてもふもふ。スズメ超かわいいっス、写真撮りたいっス(海上談)

超大雑把な「スズメ激写装置」の概念図。画力も発想力も小学生の自由研究レベルだ(担当編集談)

そもそも「Raspberry Pi」って?

作りたいものはなんとなくわかったけれど、そもそもRaspberry Piって何? 本当にだいじょうぶなの? という声が編集部のある東京・竹橋方面から聞こえてくるので、かんたんに説明しておこう。

Raspberry Piは、英国のラズベリーパイ財団が開発および仕様を定義する、ARMアーキテクチャを採用の小型コンピュータ。いわゆるパーソナルコンピュータに求められる機能はカードサイズ(67.6×30mm)の基板にすべて実装されており、4基のUSBポートやGPIOポート(40ピンの入出力端子)で機能を拡張できる。電源はUSB Micro-Bで供給、モバイルバッテリーを使えることがポイントだ。

最新モデルは2015年春発売の「Raspberry Pi 2」で、CPUに900MHz/4コアのARM Cortex-A7を採用、メモリはLPDDR2 SDRAM 1GBを積む。初代Raspberry PiはARM 1176JZF-S 700MHz/シングルコア、512MB RAMと、画像処理を任せるには若干心もとない仕様だったが、スマートフォン級の処理性能を持つ最新モデルであれば動体検知や動画撮影も余裕でこなせる。

OSにはLinuxを使うつもりだ。間もなくMicrosoftからRaspberry Pi 2対応の「Windows 10 IoT Core」が正式リリースされる予定だが、カメラシステムの管理にGUIは必要ないし、動体検知可能な撮影システムがリリース直後のOSにあるとは思えない。「Motion」を利用できるくLinuxのほうが確実だ。SSHでリモートログインしていくつかコマンドを実行できればそれでじゅうぶん、撮影した静止画/動画はLAN経由で取り出せばいい。

さて、次回は『スズメ激写装置』に必要な部品の調達を行う。果たして動きのすばやいスズメを撮影できるのか? 動きの鈍いハムスターあたりでお茶を濁そうとしているのでは? そんな疑念を払拭すべく、諸々検証しながら自由研究を進めていきたい。

今回の自由研究に利用する「Raspberry Pi 2 (Model B)」。4基のUSB 2.0ポートと40ピンのGPIOポートで機能を拡張できる

CPUは900MHz/4コアのARM Cortex-A7、スマートフォン級の処理性能を持つ。/proc/cpuinfoを見れば、4コア搭載されていることを確認できる