既報のとおり、Microsoftは7月29日にWindows 10無償アップグレードを開始するが、同日から使用可能になるエディションはWindows 10 HomeおよびProのみ。Enterprise エディションは8月1日以降、SA(ソフトウェアアシュアランス)を通じて展開を始める。
Enterprise エディションは中堅~大企業の利用を想定した設計のため、コンシューマー向けのエディション以上に安定性や信頼性が要求される。特にRTM(製造工程版)という開発プロセスを省いたWindows 10では、十分な検証期間を設ける必要があるだろう。個人ユーザーの多くは、HomeやProを選択することになるものの、それでもEnterprise エディションがすべての機能を備える"全部入り"であることに違いはない。
上図は日本マイクロソフトが作成したスライドである。Home/Proと重複する機能も並んでいるが、ビジネスユーザー向け機能として、Enterprise Data ProtectionやAzure AD(アクティブディレクトリ)との連係をアピールしている。同社の説明によれば、これらのエンタープライズ系機能がどのような条件下で動作するのか明確に決まっていないとのことだが、たとえばEnterprise Data Protectionはシステム管理者が各機能の有無をポリシー設定するため、ドメインやAzure ADへの参加が必要となるだろう。
また、Home/Proにも共通する機能ではあるが、Windows 10では指紋や虹彩、顔などを用いた生体認証でWinodws 10にサインインできるWindows Helloを実装した。さらにPKI(公開鍵基盤)やチャレンジ&レスポンス認証を加えた新たなシングル・サイン・オン・サービスをMicrosoft Passportと連動させた。
Enterprise エディションでは、このような機能を使えるWindows 10だが、執筆時点では不確定な部分が多い。これはWindowsが長年続けてきたメジャーアップデートを終了し、Windows 10が年に2~3回のペースで機能拡張を行う「サービスとしてのWindows」に改めるため、「RTMの時点で完成を目指す必要がない」という面が大きいだろう。日本マイクロソフト関係者の「将来はOSという単語を使わなくなるかもしれない」と言う軽口も実のところ冗談ではなくなるかもしれない。
Microsoft CEOのSatya Nadella氏は先頃開催したWPC(Worldwide Partner Conference)2015で、「(目標の1つとして)よりパーソナルなコンピューティングへ」向かうと語った。これは、2015年1月に発言した「必要とされるWindowsから、選ばれ愛されるWindowsを目指す」と深く関連するビジョンと言えよう。
Windows自身はもちろん、それを取り巻くIT環境も、提供するMicrosoft側も時流に合わせて変化している。長年当たり前のように存在したWindowsが目の前で変わりゆく様は実に刺激的だ。
阿久津良和(Cactus)