このところ、新車で買えるコンパクトな国産スポーツモデルの選択肢が増えてきた。軽自動車では、昨年6月にダイハツ「コペン」がフルモデルチェンジしたのを皮切りに、今年3月にはスズキ「アルト ターボ RS」とホンダ「S660」が登場。普通車においても、今年5月にマツダが新型「ロードスター」の販売を開始した。

マツダ新型「ロードスター」。発売から1カ月で5,000台を超える受注状況に

「コペン」「S660」「ロードスター」に共通点はある?

「コンパクト(な)スポーツ(モデル)」というくくりにきちんとした定義があるわけではないが、小さめで軽量なボディに小排気量エンジンを搭載し、運動性能を重視したモデル……といったところだろうか。「2リットルエンジン搭載車は小排気量車か?」「3ナンバー車でもコンパクトといえるのか?」など、人によってとらえ方がさまざまである点は、類似カテゴリーであり共通項も多い「ライトウェイトスポーツ」とよく似ている。とにかく、小さな車体を振り回して遊ぶ、特有の楽しさを提供してくれるジャンルだ。

このカテゴリーには、「ヴィッツ」「フィット」「スイフト」などの大衆的なコンパクトカーに設定された「RS」などのスポーツグレードも含まれる……というより、昨今ではむしろ主役級だった。かつて「スターレット GT」や「マーチ R」なども若者を中心に人気を博したが、これらはぱっと見、どこが「スポーツ」なのかさっぱりわからない……という一般ユーザーも多いはず。フォグランプといった装備やフロントグリルなどの意匠に細かい違いはあっても、基本的には標準グレードと同じカタチをしているからだ。

だが、このところ登場した「コペン」「S660」「ロードスター」は、いずれも最初からスポーツモデルとして開発されただけあって、もともと実用性重視のデザインであるコンパクトカーのスポーツグレードとは一線を画し、誰が見てもそれっぽいルックスという点で一致している。そして3車種とも、他の車種と見間違えられることのない個性的なデザインとなっているため、性能としての「スポーツ」に興味のないユーザーにも、クルマ選びの楽しさの幅を広げていると感じる。

今年6月に発表されたダイハツ「コペン セロ」。丸目のランプが特徴

3月末に発表されたホンダ「S660」。若手社員らによって開発されたことも話題に

その一方で、デザイン面でも性能面でも追求されている趣味性の高さは価格にも反映されている。たとえば「S660」だと約200万円から。軽自動車としては高額に感じられる。「コンパクトスポーツ」という語感から期待される価格面での気軽さ、エントリーモデル的なポジションからは、ちょっと離れていると言っていいだろう。

異なる方向性をめざす「アルト ターボ RS」

この3車種と異なるスタンスを取っているのがスズキ「アルト ターボ RS」だ。昨年末に登場した新型「アルト」の上位クラスといった立ち位置で、前述の大衆コンパクトカーに設定されたスポーツグレードに近い。見た目も、細かいところはいろいろと違うのだが、基本的には「アルト」と同じ。その分、価格も約130万円からと抑えられている。

スズキ「アルト ターボ RS」

こちらはインタークーラーターボや5速AGS(オートギヤシフト)+パドルシフトの組み合わせ(残念ながらマニュアルの設定はない)など、スポーツモデルのエッセンスを気軽に感じられるエントリーモデルととらえて良いだろう。コンパクトカーのスポーツグレードもそうだが、同じスズキの「ワゴンR」に対する「ワゴンR スティングレー」のような趣味性、個性、ファッション性、上級感に魅力を感じるユーザーにもアピールしているのではないだろうか?

さて、異なる方向性に異なるスタイルのコンパクトスポーツの充実はうれしい限りだが、全体的にやや高めの価格設定もあって、一部を除き、どの車種も大ヒットとまではいかないかもしれない……というのが筆者の予想だ。しかしそれだけに、とことん愛着を持つオーナーも出てくるだろうし、手は届かなくとも憧れを抱くファンも登場すると思う。

誰からも広く愛されて大ヒットする国民車はエラいが、ファンから特別な愛情を注がれるスポーツカーのような存在もまた、スゴい。今後も、新車で買える国産車のラインナップがいっそうバラエティに富んでいくことを願わずにはいられない。