1300年続く雅楽師の家に生まれ、音楽活動を通して国内外で活躍する東儀秀樹さん。子育てを全力で楽しむスーパーイクメンとしての顔がテレビなどで紹介され、話題を呼んでいる。子どもの才能を引き出し、家族みんながハッピーに暮らす秘訣をまとめた『東儀家の子育て 才能があふれ出す35の理由』(講談社)には、「世の中の理不尽にどう対応したらいいのか」「理想のほめ方・叱り方」など、社会人にも役に立つ生き方のコツがいっぱいつまっていた。

東儀秀樹さん
1959年、奈良時代から今日まで1300年にわたって雅楽を世襲してきた楽家に生まれる。父の仕事の関係で幼少期を海外で過ごし、ロック、クラシック、ジャズなどあらゆるジャンルの音楽を吸収しながら成長。高校を卒業後、宮内庁楽部に在籍し、篳篥(ひちりき)を中心に、琵琶、鼓類、歌、舞、チェロを担当。現在はフリーランスとして雅楽演奏会に出演するほか、海外でも公演を行い、日本の伝統文化紹介と国際親善にも取り組む

実は子どもが苦手だった

――東儀さんが子育てに夢中になっていらっしゃるのが、正直意外でした

8年前にちっち(息子さんの愛称)が生まれてから今まで、僕はずーっとワクワクしっぱなし。一生懸命生きている自分の分身のような命を見ているといとおしくて、目を離してなんていられないんです。「楽しまなきゃ」と思っているわけではなくて、もう自然にイキイキ、ワクワクしてしまうんですよね。

それに、子育てには、知的好奇心をくすぐるところもあるんですよ。例えば、おむつ替えにしても、「汚れ物を始末する」ではなくて、「どうして今日はゆるいんだ?」と好奇心も湧くし、もっと知りたいという知識欲もそそられます。子育ては初体験なので、最初は知らないことばかりでしたが、子どもに向き合っているうちに、パズルが解けていくように、何をどうすればいいか、だんだんわかってくる。そんな面白さがありますね。

――なぜ子育て論を?

うちの子はまだ8才なので、「育て上げた」とは到底言えません。でも、僕と同じように子育て中の親の話を聞くと、「いい子に育てるにはどうすればいいんだろう」とか「子育てにどれくらい参加したらいいのか」と迷い、怯えている人がすごく多いんですね。それなら、僕が今していることや、この瞬間をどんなに楽しんでいるかを綴るだけでも「東儀さんの家はそうなんだ」と安心してもらったり、子どもに対する密着度を再認識したりするきっかけになるかな、と思ったんです。

理不尽な目にあったら?

――お子さんは今、小学生ですね

何にでも興味をもつし、友達もたくさんいて、いろんな遊びをしていますよ。とにかく人を楽しませるのが大好きで、自分が楽しいと思ったら、すぐにみんなで分かち合おうとする子です。例えば面白いおもちゃを手に入れたら、友達に貸して「こうやって遊ぶと面白いんだよ!」なんて、ていねいに教えています。いじめられるとか、取られるとか、そう言う危機感が一切ないですね。

――いじめを恐れない子に育てられた理由は?

本にも書きましたが、「公園デビュー」ってありますよね。幼いときに同世代の子どもと交わることで、社交性を身につける、みたいな。でも、子どもって理不尽なことをしますから、おもちゃを取り合う中で、戦う気持ちや、独り占めしようという欲が芽生えるなど、ろくなことがないなぁと。だから僕は公園デビューはしなくていいと考えています。

その代わり、うちの子は小さい頃から、大人と一緒に過ごさせました。大人は優しいし、理不尽なことはしないし、子どもを楽しませようとしますよね。幼児には大人と子どもの区別もつきませんから、自然に「人間って楽しい、好きだ」という意識が根づきました。メンタル面では、うちの子は純粋培養で育ったと言えますね。

――でも、小学校に入れば、理不尽な目にも遭いますよね?

そうなんです。誤解されて怒られて、説明しようとしたら、先生に「言い訳なんかするな」と言われたり。ちっちは僕に、「今日は先生にこう言われて叱られた」と、何でも報告してくれます。そんなときは、僕は仕事をしていてもピタッと手を止めて、顔を見て話を聞くんです。それで、ちっちの話に納得できたら「それは先生が悪いよ」と平気で言うんです。その上で「明日になっても気持ちが悪かったら、先生のところに行って『昨日の話をしていいですか? 僕はこうだから、自分は間違っていないと思うけど、先生はどこが違っていると思いますか?』と聞いてごらん」とアドバイスします。

そんな話をしているうちに、たいていの場合は子どもの気持ちが収まって、先生に訴える気もなくなります。大切なのは、「家に帰れば、かならず自分を理解してくれるパパやママがいる」と信じられること。「何があっても家に帰れば安心さ」と思えれば、どこにいて、どんな目に遭っても安心していられるし、外の世界で挑戦することを恐れなくなると思います。

――パパが味方になってくれるのは、うれしいですね

理不尽な目にあっていなければ、大人になっても他人に理不尽なことをしないんですよ。精神的なダメージからは全力で守りますが、その代わり、少々の怪我や風邪、食あたりくらいの病気はどんどん経験すればいいと思っています。

悪者探しより原因探し

――社会人でも人を叱ったり、叱られたりするのが苦手という話をよく聞きます。東儀さんはお子さんを叱るとき、どうしていますか?

幼稚園の頃に「誰々を泣かした」と先生から報告を受けたことが何度かありました。そんなときはかならず家に帰って、「どうしたのか話してごらん」と聞いてみます。そこから少しずつ時間を巻き戻して、「その前は何していた?」「そのとき、誰々は何をした?」とやっていくと、どこに一番の原因があったか、必ずわかります。「そこだ! それは悪気がなくても、ちっちが悪いと思われちゃうよ。そういうのを誤解っていうんだ」「ちっちも意地悪されたと間違って思っちゃうこともあるでしょう、お互い様なんだよ」と話して聞かせるんです。

僕は、自分の子でも、よその子でも、「あなたが悪い」とは絶対に言いません。大事なのは、悪者を探すことではなく、原因を探すことなんです。原因がわかれば、最短距離でものごとを回復する方向に持っていけますから。大人の社会でも同じですが、悪者を糾弾しても、何もいいことはありません。ものごとを解決できたら、悪いことをした本人は陰でこっそり反省してくれればいい、くらいの大きな気持ちでいたほうが、いい組織になるし、上に立つ人間も尊敬されるのではないでしょうか。

――それでは、褒めるときは?

いいこと自体も、それをした人も、手放しでほめまくります! そのときも、時間を巻き戻しながらどこがよかったのかを子どもといっしょに掘り下げていく。「Aくんがすごかった」なら、「Aくんはなぜそんなことができたのかな?」「そうか、普段から○○をしていたからできたんだね」「どうして普段から○○ができるんだろう」「それだ! すごいな」と。

そうやって掘り下げていくと、子どもも「大人もこんなに興味をもつし、ワクワクするんだな」とわかりますよね。そうすれば単純に「これを見せれば大人に褒められる」ではなく、「大人は、結果だけでなく、普段の行動もちゃんと見ている」と理解できるので、普段から気持ちよく生きよう、と思えるんじゃないでしょうか。

――結果だけを褒めてはいけないんですね

そうです。例えば、普段からちゃんと勉強しているなら、たまたまテストで悪い成績を取っても、「あれだけがんばって勉強したんだから」と褒められますよね。"普段"を丁寧に観察していれば、褒めるべきところは、かならずあるんです。

――そのような考え方に至るきっかけはあったのでしょうか?

僕も座長として、集団でうまく個々が動くように人の役割を考えて仕事をしてきたので、自然と、このような考え方になっていったのだと思います。

学校はたまに休んでもいい

――お仕事の現場にお子さんを連れて行くことも多いようですね

ここ一番の大事な日は「今日見るものは、学校よりも大切だから、おいで」と、学校を休ませて連れて行くこともあります。小学校の勉強なら、ちょっとがんばれば取り戻せるでしょう。それよりも、今日のパパは二度と見せられないと思ったら、そちらを優先させるんです。子どもも「ときには学校より大切なこともある」と幅広い価値観をもてるようになりますよ。

子ども時代は、人生のなかでほんのわずかですが、一番自由のきく貴重な時間ですから、心が柔らかく、スポンジのように何でも吸収できるときに、何でも経験してほしいんです。それが日常になれば、いつも好奇心全開で、怖がらずに進んでいける大人になれますから。それはつまり、僕みたいな大人になるってことですけど(笑)。

――最後に社会人のみなさんへ、メッセージをお願いします

自分にしかないものはかならずあるから、まずは自分を信じて、人と同じではないことを喜んでください。「みんなはこう“なのに”、自分は……」と考えるのと、「みんなはこう"だけど"、自分は……」と考えるのでは、人生の楽しさがまったく違いますから。もうひとつ、あなたを褒めてくれる人は、かならず1人はいます。それは自分自身。「やったぜ、自分」「私ってすごくない!?」と思っていると、生きていくのがすごく楽になりますよ。

――ありがとうございました

『東儀家の子育て 才能があふれ出す35の理由』(講談社/税別1,300円)
どんどん才能があふれ出し豊かな人間力をも養う育児って? まるで「おもちゃ箱」のような東儀家に、その答えがある!!一人息子のちっち君は今8歳。ロックやアート、サイエンスや英語、コミュニケーション能力など、様々な才能があふれて止まらない。その秘密は、東儀秀樹の人生哲学や思考法にあった。スーパーイクメン、雅楽師・東儀秀樹流、本気の子育て論。