芥川賞受賞作に連なる阿部和重の長編『ピストルズ (上)』 - iTunes Store 今週のブック 2015/07/17

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今週のブック
	『ピストルズ (上)』阿部和重 発行者 コルク 販売元 Mobilebook.jp, Inc 長さ 350ページ

壮大なる神町の物語、第2部

今週のブックは、芥川賞作家・阿部和重の長編『ピストルズ (上)』です。代表作『シンセミア』に続き、筆者の出身地である山形県東根市神町を舞台に描かれた作品で、"神町トリロジー"の第二部にあたるというもの。短編『ニッポニア・ニッポン』、芥川賞受賞作『グランド・フィナーレ』も同じく神町が舞台で、トリロジーのスピンオフにあたります。

町にある小さな書店主の視点から、シチュエーションごとにじわじわと伏線と回収を重ねていく流れは、映画を見ているよう。かと思えば、町にある謎多き旧家・菖蒲家の次女が少し古めかしさのある口調で語る過去話がけっこう衝撃的で……。神町という実在する場所が舞台ですが、作中では史実とファンタジーが入り乱れる幻想的な世界。しかしそれを構成する人間らはなかなかに生々しいものです。

宇宙を語るがごときスケール感で語られる神町とは? トリロジーの第二部ではありますが、単体で読んでも分かる内容になっています。

(作品紹介)
>> 魔術師一家だと噂される菖蒲（あやめ）家に興味をもった石川は、若木（おさなぎ）山の裏手の屋敷を訪れる。そこは植物の香りに満たされ、心地よい音楽が演奏されるヒーリングサロンだった。次女・あおばの口から語られる菖蒲家の歴史は、神町の真実を暴いてゆく。若木山を信仰した祖父、菖蒲家の屋敷にユートピアを築こうとした父、そこに集まった四人の女性たち…… そして血の呪いに縛られた菖蒲家に、ついに家伝継承者となる運命の子が生まれる。 幻想的な世界を展開し、谷崎潤一郎賞を受賞した阿部和重の最高傑作。

つながり作品

現実と幻想が交錯した『ピストルズ』で描かれる神町。しかし、トリロジーを構成する『シンセミア』もスピンオフ作品も、どれもが全く違う雰囲気、違う文体の作品になっています。同じ世界も見る人が違えば異なって見える、というのは妙にリアリティーがあります。『ピストルズ (上)』が気になったら、下巻を手始めにどっぷりと神町に浸ってみませんか。かなりヒリヒリとした一夏が送れると思いますよ。