支援を取り付けるための「条件」に関して合意
7月13日のユーロ圏首脳会談で、ギリシャとドイツなどユーロ圏各国がついに合意に達した。これによりギリシャの「ユーロ離脱」の危機は回避された。もっとも、ギリシャは支援を取り付けたわけではない。あくまでも、支援を取り付けるための「条件」に関して合意したということだ。
首脳会談後の声明冒頭には、「将来的に合意する可能性がある新しいESM(欧州安定メカニズム)プログラムの大前提として、ギリシャ政府が信頼を取り戻すことが決定的に重要であることを首脳会談は強調する」とある。これまでの交渉で、チプラス政権がいかに信頼を失ったかを如実に物語っている。したがって、「数々の条件をクリアすることで、まずは信頼を回復せよ。支援の話はそれからだ」ということだ。
支援総額は3年間で最大860億ユーロ。このうち250億ユーロが銀行への資本注入に使われる見通しだ。1月にチプラス政権が誕生する前は、必要額は300億ユーロと見積もられていたので、半年間の景況悪化や銀行システムの疲弊などによって、3倍近くまで膨れ上がった。
ギリシャの債務減免については、ドイツの主張で元本の削減はしない方向だ。債務期間の延長や金利引き下げなど、いわゆる債務の再編(リストラクチャリング)が中心となった。
財政改革法案の可決で、ようやく基本合意書(MoU)の交渉が開始
実は、支援に関する基本合意書(MoU)はまだ交わされていない。ギリシャ議会が7月15日に、(1)付加価値税などの増税、(2)年金改革の第一歩、(3)統計局の独立性確立、(4)財政赤字目標逸脱時の歳出自動削減など、財政改革法案を可決したことで、ようやくMoUの交渉が始まる。
上記の法案可決に加えて、ギリシャは、抜本的な年金改革、財政健全化、商慣行や市場の改革、電力公社の民営化、労働市場改革、金融制度改革など、自らの提案に一段とコミットすること求められている。さらに、国有資産売却や行政府改革など追加的な要求も呑まされた。そして、それらの進捗をチェックするための監視団がアテネに常駐することになるようだ。
国有資産売却は、チプラス首相が最後まで抵抗した項目だ。債権団の提示した国外ファンドへの資産移管は免れたが、ギリシャ国内にファンドを設置し、そこで資産売却を進めることになった。
国有資産の売却で500億ユーロの収入を見込み、このうち250億ユーロを資本注入の返済に充て、125億ユーロが債務削減、残り125億ユーロが投資に利用される。
ブルームバーグによれば、2011年の支援第2弾の条件としても、国有資産の売却が組み込まれたが、これまでの売却実績は総額35億ユーロに過ぎないとのことだ。なんとかの皮算用にならなければ良いが。
7月20日のECB保有国債35億ユーロの償還など喫緊の資金需要については、ユーロ圏のワーキンググループが短期のつなぎ融資を検討しているようだ。また、合意ができたことで、ECBはギリシャの銀行に対する緊急流動性の供給を再開するだろう。
チプラス政権やギリシャ国民にとって、屈辱的な内容
今回の合意は、チプラス政権やギリシャ国民にとって、箸の上げ下ろしまで注文をつけられるような屈辱的な内容となった。それでも、ギリシャが粛々と条件を満たしていくようであれば、「ギリシャ」はもはや相場材料とはならないだろう。
一方で、ギリシャ議会や国民の猛反発によって改革が滞るようであれば、支援交渉の頓挫、そして「ユーロ離脱」の観測が改めて浮上するかもしれない。まだまだ安心はできない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。2015年7月31日にWEBセミナー「マーケットリサーチ・レーダー:8月の投資戦略の探求」を開催する。詳細はこちら