小説『火花』で芥川賞作家となったお笑いコンビ・ピースの又吉直樹は、16日に東京・帝国ホテルで行った会見で、背後の金屏風を見て「うそみたいな感じ」と驚きながら、芸人としての経験が今回の受賞につながったことを、繰り返し語った。

芥川賞を受賞したピース・又吉直樹

「芥川(龍之介)と太宰(治)から小説を読み始めた」という又吉。そこから「小説は急に書きたくなった」と、衝動にかられて筆をとったことを明かした。

そして作品が世に出て、さまざまな場面で評価されるうちに、「街を歩いてても、今まで『死神、死神』と呼ばれていた感じからは、ちょっと変わったかな」と生活面で変化が。しかし、「芸人をやって、それ以外の時間で書くというのをずっとやってきたので、その姿勢は崩さないようにしようと思います」と、仕事のスタンスはこれまでと変えないことを宣言した。

又吉は「それが(芸人と作家業の)どちらにとっても一番いい」と確信している様子。その理由を「毎月ライブをやりながら、そこで表現できないことがどこかに残っていて、それが文章を書くことの一歩目になることがすごく多い」と、創作のきっかけになっているためだと説明した。

それゆえ、報道陣から「作家としての仕事が増えるのではないか」と質問されても、芸人の仕事は「すごく必要なことなんです」と強調。会見の最後には「『火花』は若手芸人のことにも触れている物語なので、若手がたくさん出ている劇場にも来てもらって、盛り上がってくれれば」と、ひょうひょうとした口調ながらも、芸人という職業への熱い思いが、最後まであふれていた。

選考委員の作家・山田詠美氏は、受賞会見の前に行われた講評で「選考会の時に、彼(又吉)がどんな職業であるかという話は、ほとんど出なかった」と、又吉が"芸人"であることが審査に影響したことを否定。そして「ほかの選考委員の先生も口々に『今回はレベルが高かった』とおっしゃっていました。私もそう思います」と、太鼓判を押していた。

大勢の報道陣に囲まれる又吉(中央)

会見終了後、報道陣の取材に応じた又吉は、お祝いのシャンパンを、緊張から2杯も飲んでしまい、目を若干赤くして登場。それでも「喜びはむちゃくちゃ(あります)。もし明るい人間だったら『フーッ!』って言ってるんでしょうけど、あいにくこんな感じで生きてきた人間なんで…」と、いつもの調子で内なる歓喜を説明した。

「正直、(受賞の)自信は0でした」と言うが、受賞の瞬間は、携帯電話の着信画面を見て誰からの連絡かが分からないように、裏返しにして待機。吉報を聞いて「ちょっと手が震えました」と、運命の瞬間を振り返った。

母親にはメールで受賞を伝えたというが、この時点で返信はまだなし。また、最近財布を落とした相方の綾部祐二に2万円を貸し、その後財布が戻ってきたそうだが、綾部からは「『あの2万返さなくていいよね』という感じのメールが来ました」という。さらに、「綾部と2人きりのときに、はっきりと『時計を買ってくれ』と言われました」と、すっかり又吉の賞金(100万円)を頼りにしていることを暴露した。

次回作については「やっぱり面白いものを書きたいんで、どれくらいの時期で出せるか分からない」としたものの、「恥かいてもいいんで、必ず書こうと思っています」と力強く宣言した。