フランス語、スペイン語、英語、イタリア語、ドイツ語と5か国語を自在に操るフランス人のジュリアさん。その理由は、彼女が生まれ育ったミュルーズという街にあるようです。スイス、ドイツと隣接するこの街では、隣駅に行くような感覚で通勤・通学・買い物などが日々国境を越えて行われています。陸続きのヨーロッパならではのボーダレスな街で、新たに語学学校を設立した彼女に話を聞きました。

ジュリア・さん/フランス・アルザス地方・ミュルーズ在住/34歳/語学学校Cschoolの経営者

■これまでのキャリアと今の仕事について教えてください。

フランスの北東にある小さな街で、スペイン人の母とフランス人の父の間に生まれ、何も意識することなくバイリンガルとして育ちました。小学校からは授業でドイツ語も学んだので、ティーンになる頃には英語も加えて4カ国語が話せたと思います。

地元の大学を卒業後、外国でキャリアを積んだ方が将来的に有利に働くだろうと考えイタリアのPR会社に勤めました。イタリア語は「パスタ・ピザ」しか知らなかったのですが、文法はフランス語に、発音はスペイン語に近いので、すぐに取得できました。

その後も他の国でキャリアを積みましたが、再度学問に戻りたくフランスへ。数年かけて経済学と社会学の修士号を取得し、充実した毎日を送っていました。

しかし2010年に父が急死し、ショックで長い間ふさぎ込むことに。どうにかして気分を変えなければと思っていたある朝、目覚めた途端に「そうだ、ベトナムへ行こう!」と直観的にひらめいたんです。自分の感性を信じて、今の夫と一緒に仕事を辞めてホーチミンへ旅立ちました。

ホーチミンではベトナム語を学びながら、現地のインターナショナルスクールで英語とスペイン語を教えました。学校で語学を教えたのはこれが初めてでしたが、とても楽しく自分に合っていると感じました。

ベトナムから故郷に戻ってからは、地元近くの高校・大学で、英語・フランス語・スペイン語を教えてきましたが、フランスでは古いカリキュラム通りの授業を強要され、学校側と衝突することもありました。もっと自由に語学の楽しさを知って欲しいという願いが強くなり、思い切って自分で語学学校をスタートさせることに。現在は少人数制で英語とスペイン語を教えています。

■お住まいの地域では外国語を学ぶ人が多いのですか?

私の故郷であるミュルーズは、ドイツ、スイスの国境までそれぞれ車で30分程度の場所に位置しており、周辺で石炭が取れたことから17世紀以降フランスとドイツとの間で土地争奪戦が何度も起こった地域でもあります。このエリアで一番大きな都市「ストラスブール」は5回も国籍が変わっていて、ストラスブール大聖堂のツインタワーは、戦争が起こる度に片方が壊れ、占領した国がそれを立て直すとすぐに新たな戦争が始まるといった具合でした。

第二次大戦後に、お互い消耗するだけの無駄な争いはやめて石炭鉄鋼の共同管理をしようと発足したのがECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体)で、皆さんご存知の通り現在のEUの元になっています。ストラスブールは現在でも欧州人権裁判所やEUの欧州議会の本会議場などが置かれるEUの象徴的な都市の1つです。

現在ではそんな土地柄を利用して、住むのは家賃が安いフランス、職場は賃金が高いスイス、買い物は物価の安いドイツ、などという選択を、みんなが日常的にしています。またフランスより景気が良いスイスやドイツへ職を求める人も多く、語学の需要もフランス国内の他地域よりずっと高いと思います。

現在ストラスブール大聖堂のツインタワーは、もう2度と争いが起こらないようにとの願いを込めて、あえて片方のタワーが壊れたまま再建をしていません。この土地で外国語を楽しく教えることができるのも、平和がもたらされた証拠ですね。

ストラスブール大聖堂。17世紀以降5度も国籍が変わり、欧州の歴史を象徴する都市として知られている

■現在のお給料はどうですか?

学校を立ち上げたばかりなので、お給料は前の職場の方が多いです。ただ、念願だった自分の会社を持てたことと、教える内容や時間を自分の好きなように決められる自由さがあるので、純粋に給料だけでは比べられないですね。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

少人数制でクラスができること!

自分で学校を持ったら1クラス5人までにすると決めていましたが、少人数で行えるクラスがこんなにも良いものだとは想像以上でした。生徒とより密に接することができるので、良い関係を築くことができるし、1人1人に合った指導ができます。

また昨年娘を出産したので、サラリーマンだった時よりも彼女と過ごす時間が増えた点も気に入っています。

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

フランスでは新しい会社を作るのがとにかく大変!! あちこちの役所や機関に書類や資料を提出したり、説明に赴いたりせねばならず、準備だけで8カ月もかかったんですよ!! その期間は本当に憂鬱でしたが、やっと許可が下りた時には心の底からホッとしました。

もっとその手続きが簡略化されれば、新たな会社が新たな雇用を生み出し、失業率の問題も少しは解決すると思うのですが、残念です。

■日本人のイメージは? あるいは理解しがたいところなどありますか?

仕事を一緒にしたことはありませんが、大学などで日本人と親しくなりました。オープンマインドで礼儀正しく、真面目で常に相手を敬うことができる人達だと感じています。 ただ、顔は笑顔なのに実は怒っていた、がっかりしていたと後で知ったことが何度かあり、感情表現がフランス人とは全く違うので、とても驚きました。

■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?

福島の震災事故をきっかけに始められたロボットコンテストのニュースは非常に興味深かったです。車の運転やバルブの操作、工具で壁に穴を開けるなどの課題をロボットが行うというものです。震災の痛ましい体験が災害救助に役立てばと、遠くから願っています。

■ちなみに、今日のお昼ごはんは?

この日は義妹の家で食事をし、彼女が作ってくれたガレットを食べました。中にはハム、マッシュルーム、卵が入っています。レストランやカフェでも良く食べられる、とても一般的なフランス料理です。

義妹お手製のガレット

■休日の過ごし方を教えてください

学校は日曜日と月曜日が休みです。休みの日は、もうすぐ1歳になる娘や夫とのんびり過ごすことが多いですね。お互いの家族を招いて夕食を食べたり、娘を母に預けて夫や友人と飲みに行くこともありますよ。

■将来の仕事や生活の展望は?

まずは始めたばかりの語学学校を軌道に乗せることですね。近くにある、スイスのバーセル空港から社員の語学研修の話も頂いているので、何とか成功させたい!

私生活では、旅行が好きなので家族で世界中を旅したいです。今は南米や東南アジアの国に興味があります。

欧州の言語とは全く異なるベトナム語を勉強した時は非常に苦労もしましたが、その分とても興味深く面白かったので、また新しい言語も学んでみたいな! 語学を取得する時はいつも、家中の物にポストイットで単語を書いて貼るんです。目にする度に言語を思い出すでしょう? 楽しく語学を学べるおすすめの方法なので、皆さんもぜひ真似してみて下さいね!

日本の友人からプレゼントされた浴衣で、旦那さまと