親と別居している場合、親のお金の管理について、なかなか実態が把握できていないことが多いのです。いきなり、「相続時に困らないために」というほど、大上段に構えた話ではなく、子ども世帯では当たり前にできていることが、意外と親世代は知らなかったり、意識から抜け落ちていることが多いのです。日頃、ひんぱんに帰れない分、遠く離れた親のお金のこと、少し気にしてあげてもいいかもしれません。

すでに親は年金受給者の場合は、口座管理の変更に注意

年金情報の漏えい問題が、今もっとも気になることですが、すでに年金を受給している場合は、口座のチェックなど済ませていることでしょう。しかし、念には念を入れて、一緒に確認してあげるといいでしょう。

その際、お金の流れも一緒にチェックすることをオススメします。サラリーマンの場合、これまで給料の振込口座は勤務先の都合で決められているなど、必ずしも自宅近くに銀行の支店やATMがないケースもあります。年金受給の際に、受取金融機関を変更している場合、お金の流れが変わります。

たとえば、さまざまな自動引き落とし。給料の振込口座のままになっていると、当面は残高があれば問題ありませんが、いつのまにか自動引き落としができなくなっていた、ということにもなりかねません。そうでなくとも、これからの生活費の支出をどのように管理していくのか、ということは早目に決めておくように伝えたほうがいいでしょう。

筆者の家庭の場合、年金受給の口座が父と母の二つがあり、なぜか毎月、父の口座から一定額を引き出し、母の口座に入金。そこから自動引き落としという流れになっていました。母の口座は残高が少ないため、振替を忘れることが続くと、公共料金の支払いができない事態に陥っていました。すべて父の口座からの引き落としになるよう変更手続きをしましたが、年老いてからのもろもろの手続きは、子どもが代行するにも厄介なことになります。

また、忘れがちなのが住宅の保険。数十年も前に加入した住宅の保険の保険期間が終了しているのに気付かず、放置している、つまり無保険状態になっていないかを確認することです。通常は、保険会社から更新のお知らせなどがあるはずですが、こうしたことも様々な書類に紛れ、そのうち忘れてしまう可能性があります。

その後の住まい方にもよりますが、通常は再建築価格と言って、火災などで焼失した場合、同じ建物を建築しようとしたときにかかる費用をベースに保険金額を設定しますが、老朽化した住宅であれば最低限の保障でもいいでしょう。同じように自動車を所有していれば、自動車保険の加入状況も確認する必要もあります。

とかく、年齢を重ねるごとに、事務手続きが面倒になり、放置してしまいがち。いずれも親に安心して生活してもらうための確認ですから、親御さんも嫌な気持ちにはならないでしょう。ぜひ、夏休みなどの帰省時に声をかけてみてください。

まだ現役で働いている親なら、リタイア後の生活イメージの共有を

子どもである自分が、いずれ実家に戻り親と同居する予定があるなら別ですが、このまま別居のまま暮らしていくとしたら、親がリタイアした後、どのような生活イメージを持っているのか、聞いておくことも大切です。

今の50代は年金受給開始年齢が、現在よりも遅くなる可能性もあり、働けるだけ働く、と考える人も少なくないでしょう。それでもいつかはリタイアするときがやってきます。そのときに現在の家に住み続けるのか、それとも国内、海外に移住するつもりがあるのか。親はリタイア後にどんな生活イメージを持っているのかを知ることは重要です。

子どもの援助や介護を受けなくても生活できるだけの資産があるのか、もしも介護が必要になったときはどうしたいのか、現在の家に住み続けるにしてもバリアフリー対策などが必要かどうかなど、案外、現役で働いているうちは、考えが及ばないものです。

こうしたことを65歳、70歳になった時点で考えればいいと思っていると、体力や判断力は衰えているため、本来の希望とは違った結果になることもありえます。親も子も元気なうちに、十分な会話をしておくことです。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

伊藤加奈子

マネーエディター&ライター。法政大学卒。1987年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。不動産・住宅系雑誌の編集を経て、マネー誌『あるじゃん』副編集長、『あるじゃんMOOK』編集長を歴任。2003年独立後、ライフスタイル誌の創刊、マネー誌の編集アドバイザーとして活動。2013年沖縄移住を機にWEBメディアを中心にマネー記事の執筆活動をメインに行う。2級FP技能士。