薄毛といえば、いつの時代でも男性にとっては悩ましい問題だろう。ただ、近年では男性だけではなく女性も頭髪問題で悩みを抱える人が多くなっている。本稿では、ホルモン補充療法などの施術を行うAACクリニック銀座の院長・浜中聡子先生の解説を基に、女性の薄毛・抜け毛の原因などについてまとめた。

女性の薄毛・抜け毛の原因は複数

男性では額の生え際から薄毛が起こり、頭頂部も伴って薄くなる「男性型脱毛症」(AGA: Androgenetic Alopecia)が最も多い。男性ホルモンと関係が深く、ある程度原因が解明されており、治療の方向性も決めやすいという特徴がある。

一方で女性の薄毛や抜け毛の原因は多岐にわたり、脱毛症のパターンも複数ある。まずは女性の脱毛症の種類について把握しておこう。

■びまん性脱毛症……女性に最も多く見られる症例。多種多様な原因から起こり、境目なく薄くなる

■女性型男性脱毛症(FAGA)……AGAの女性版。加齢による女性ホルモン低下によって引き起こされる

■分娩(ぶんべん)後脱毛症……産後の女性ホルモンバランスの乱れで起こる

■牽引性脱毛症……髪を引っ張るなどの物理的刺激によって髪が抜ける

■円形脱毛症……毛根にダメージを与える自己免疫疾患の一種

これらが主な薄毛・抜け毛にいたるパターンだ。

女性ホルモンと血流がカギ

これらの症例の原因としてストレスや過度なダイエット、睡眠不足などがあるが、浜中先生は特に気をつけたい点として「ホルモンバランスの乱れ(低下)」と「血流の低下」を挙げる。

AACクリニック銀座を訪れた40代の女性の写真。過度のダイエットも女性の薄毛の原因となる

女性の体に大きな影響を与える女性ホルモンの1つに、「エストロゲン」と呼ばれるホルモンがある。このホルモンはさらに細かく3つに分類できるが、体内にホルモンを補充する「ホルモン補充療法」において使用される「エストラジオール」の低下が、髪に悪影響を及ぼすのだ。

「女性はエストラジオールの低下によって、髪質が変わります。髪がうねって乾燥度が強くなるし、髪が細くなります。特にこの変化というのは、更年期・閉経後に女性がすごく感じやすい髪質の変化としてとらえられます。中でもびまん性脱毛症は、女性ホルモンの関与があると言えます。また、血流の問題もあるので、女性ホルモンだけが原因とは言えないですが、エストラジオールの低下によって特に頭頂部が薄くなります」。

女性ホルモンは発毛治療の効果に影響する

女性ホルモンは加齢に伴い、例外なく漸減していく。分泌量が多い人でも30代後半から徐々に減っていき、「閉経期」に該当する40代後半から50代前半にかけて一気に減少する。分泌量が減ってきた女性ホルモンを補うためにホルモン補充療法があるわけだが、ホルモン量が戻れば「薄毛・抜け毛問題」が解決するかといえばそうではない。

「女性ホルモンを補充すれば髪が以前のように戻るかというと、戻らないんですね。結局、髪は髪で発毛用の治療をしないといけないのが現状ではあるんですけれど、ホルモンバランスがいい方が同じ発毛用の薬を使っていても、効果が出た後の維持がいいんですよ」。

女性ホルモンに何か問題があると、発毛治療をしていても髪が切れたり髪質が悪くなったりするなどの問題が出やすい。髪のうねりや乾燥などを含めた髪質を安定させるには、女性ホルモンを安定させるにこしたことはないと言えそうだ。

薄毛・抜け毛に悩む年代層は広がっている

近年は薄毛や抜け毛に悩む人の年齢層が広がってきている。「若い人もいるし、昔は『年齢のせいだ』とあきらめていた問題に積極的にアプローチする方も増えているので、60~70代へのすそ野も広がっている感じですね」。

また、分娩(ぶんべん)後脱毛症になり、「髪のリカバリーが遅い」「出産前とは違った髪が生えてくる」など女性特有の妊娠・出産に関する悩みも多いという。

美しく艶(つや)やかな髪に、女性としての魅力を感じている女性も多いだろう。加齢に伴う女性ホルモン分泌量の低下が、髪に悪影響を及ぼすこと自体は避けられない。だが、規則正しい健康的な生活を送ることでその低下スピードを遅くすることや、ホルモン補充療法で新たにホルモンを補うこともできる。自分が満足いく頭髪でい続けるためにも、女性ホルモンに留意した生活を送ってみてはいかがだろうか。

記事監修: 浜中聡子(はまなか さとこ)

医学博士。北里大学医学部卒業。AACクリニック銀座院長。米国抗加齢医学会専門医、国際アンチエイジング医学会専門医などの資格を多数取得。アンチエイジングと精神神経学の専門家で、常に丁寧な診察で患者に接する。